抄録
【はじめに】急性期の下腿切断者は断端創の治癒と成熟を第一の目的とされ,理学療法では早期からの荷重訓練は困難な場合が多い.しかし,断端創への負担を考慮したエイドバック義足を用いての歩行は閉鎖性運動連鎖(以下CKC)でもあり,当院では早期から実施している.ただそれ自体が困難な場合は断端部への荷重を配慮し膝立ち位からの体幹後傾トレーニング(Kneeling Quadriceps 以下KQ)を行っている.KQでの筋力強化については臨床上その有用性について認識しているものの,これまでの筋電図を用いた報告は健常者によるものであり,下腿切断者における検討はほとんど行われていない.今回我々はKQが筋力強化としても有用であるかを検討する目的でpreriminary studyとして下腿切断者3名を対象に立ち上がり動作時とKQでの下肢筋の筋電図を測定し,比較検討を試みたので報告する.
【方法】対象は片側下腿切断者男性3名(年齢50±21.5歳,身長169.0±8.7cm,体重73.0±21.7kg)とした.筋電図はテレメトリー筋電計MQ8(キッセイコム株式会社)を用い,大腿直筋(以下RF)・内側広筋(以下VM)・大殿筋(以下GM)・内側ハムストリングス(以下MH)の両動作時のpeak値の測定を行った.KQは対象者が行える最大の体幹後傾位(この際,代償動作として股関節屈曲が出現しないよう十分配慮した)で測定を行い,立ち上がりは義足を装着し45cm台上端坐位から上肢支持を使わずに行った.
【結果】患側VMのKQは0.20±0.01mV,立ち上がりは0.18±0.15 mVとなり両動作を比較するとほぼ同様の値を示した.また,患側GMのKQは0.02±0.01 mV ,立ち上がりは0.09±0.05 mV,患側MHのKQは 0.01±0.09mV,立ち上がりは0.27±0.15 mV,患側RFのKQは 0.11±0.08mV,立ち上がりは0.15±0.08 mVとなった.
【考察】今回の結果では立ち上がり動作に対しKQでGMやMHのpeak値は低い値を示した.これは体幹後傾に伴い重心が後方移動することで,姿勢制御に身体前面の膝関節伸筋や股関節・体幹屈筋の収縮が要求されるものの,身体後面のGMやMHには強い筋収縮が求められないためと考えられる.また,KQでRFは立ち上がり動作よりは低値であったが,VMにおいてはほぼ同様の値を示した点については,2関節筋であるRFに比して筋活動量が高くなったことから姿勢保持に対する単関節筋の影響と思われる.下腿切断者の理学療法において切断によるレバーアームの欠損は徒手的な下肢筋力強化の場面で非常に不利な状況を招くことになる.今回,KQではVMにおいて立ち上がり動作時と同程度の値を示したことから膝関節伸展筋への訓練効果が高いことが示唆された.今後はさらに症例数を増やし検討していきたいと考えている.