抄録
【はじめに】腹筋トレーニング時の体幹筋群の筋活動に関する研究は報告されているが、ハムストリングス(以下ハムスト)の影響が体幹筋群の筋活動に及ぼす影響を報告した論述は少ない。そこで今回我々は、ハムストの収縮を意識し骨盤が固定される場合と収縮を意識せず骨盤が固定されない場合で、体幹筋群の筋活動に影響を及ぼすと仮定し表面筋電図を用いて測定し検討したので報告する。
【対象と方法】健常男性10名(平均年齢27.4±4.48歳)を対象とした。測定方法は、背臥位にて膝関節90度屈曲位の膝立て位を開始肢位として、徒手筋力検査法に基づき肩甲骨の下角が浮き上がるまで体幹を屈曲し、その姿勢を5秒間保持させた。その時に踵部を固定しハムストに収縮を意識させて行う方法(以下SUR)とハムストの収縮を意識しないで行う方法(以下SUF)で比較し検討した。表面筋電図の測定には日本光電社製マルチテレメーターWEB-5500を使用し、導出筋は脊柱起立筋(Ps)、腹直筋(RA)、外腹斜筋(OEA)、中殿筋(GMe)、大殿筋(GMa)、大腿直筋(RF)、半腱様筋(Sd)、前脛骨筋(TA)とした。各導出筋において最大等尺性収縮を施行しMVCを算出した。各動作で得られた5秒間の筋活動から中間3秒間の筋活動をMVCで除して%MVCを算出した。統計処理はWilcoxon符号付順位検定(P<0.05)を使用した。
【結果】SURの%MVCは、Psは19.62±21.42%、RAは56.44±26.72%、OEAは54.37±41.16%、GMeは22.28±25.43%、GMaは22.51±31.09%、RFは9.24±8.96%、Sdは26.76±13.77%、TAは1.82±1.61%であった。SUFの%MVCは、Psは17.31±21.85%、RAは45.46±22.03%、OEAは46.13±32.26%、GMeは27.23±47.94%、GMaは20.91±34.55%、RFは10.35±14.78%、Sdは8.98±9.11%、TAは1.38±1.51%であった。SdはSURが有意に高かったが、その他の体幹筋群、下肢筋群には有意差は認められなかった。
【考察】ハムストの収縮の有無による骨盤固定の有無が体幹筋群の筋活動量に影響を及ぼさない結果となった。今回の結果よりSUR、SUFともにRA、OEAは最大筋力の約40~50%の筋活動量が認められた。Hettingerは筋力維持には最大筋力の20~30%、筋力増強には最大筋力の30%以上の筋活動量が必要と報告している。ハムストを収縮させ骨盤を固定しなくとも筋力維持や筋力向上に必要なRA、OEAの筋活動量を確保することが可能であることが示唆された。