抄録
【目的】近年,体幹深部筋のトレーニングは腰痛予防・改善に重要であるとの報告が多数みられている.バランスボールや不安定板の使用などトレーニング方法は多岐にわたるが,運動強度や循環応答に関する報告は少ない.我々は第42回大会にて,AT強度以下でのエルゴメータ駆動においては運動終了後のHR回復時間を予測可能になることを報告した.今回は,不安定板とバランスボールを使用した体幹深部筋トレーニング時の運動強度・HR回復時間について分析したので報告する.
【方法】対象は健常成人10名(男性6名,女性4名,平均年齢22.2歳,平均身長166.9 cm,平均体重58.0 kg)であった.対象者には実験の目的・危険性等を説明し,書面で承諾を得た.被験者には以下の2つの課題を実施させた.課題1:椅子に載せた直径250 mm,高さ70 mmの不安定板(ペアサポート社製)上で端座位を保持しながら,対側上下肢挙上(肩90°屈曲・膝0°伸展)・20秒間保持を左右交互に3分間反復させ,体幹深部筋のトレーニングを実施.課題2:直径60 cmのバランスボール(HYGENIC社製)上座位で課題1と同様に実施.運動中の酸素摂取量をbreath-by-breath(AE-300S,ミナト医科学)で測定し,安静座位時の酸素摂取量を1METとし,各課題時の運動強度[METs]を算出した.また安静座位時・運動時のHR[beats・min-1]をHRモニター(S810i,Polar)により測定し,安静時平均HR,運動後半1分間の平均HR(運動時HR),運動後のHR回復時間[sec]を算出した.なお,HR回復時間は運動終了後HR10拍の平均値が,安静時HR +1 SDを下回った時を回復時点とし算出した.統計解析はSPSS Ver.13を使用し一元配置分散分析(多重比較:Sheffe)・対応のあるt検定を有意水準5%未満で行った.
【結果】運動強度の平均値(SD)は課題1:2.0(0.3),課題2:2.2(0.3)METsであった.運動時HRの平均値は課題1:85.4(9.6),課題2:87.6(12.0)で両者に有意差はなかったが,安静時HRの平均値72.3(7.2)よりは有意に大きかった.HR回復時間平均値は,課題1:33.3(11.7),課題2:32.5(9.6)secであった.
【考察】本結果から,体幹深部筋トレーニングは使用器具による運動強度の違いはみられず,両方法とも同程度の体幹筋活動・酸素需要,自律神経系の反応が起きていることが示唆された.また,本研究での両課題はいずれも前回のエルゴメータ駆動と同様にAT以下の運動強度であったが,HR回復時間の予測には至らなかった.これは運動様式・使用筋の違いから,エルゴメータ運動時とは異なるHR回復過程を示しているためと考えた.