抄録
【目的】Jeammerodや森岡らにおいて、運動イメージの有効性についてさまざまな報告がされている。パフォーマンスに及ぼすmoter imagery(以下MI)のうち、外的イメージと内的イメージでは後者において重要であるとされている。スポーツ分野では、新しい運動技術やフォームの修正・向上などに有効とされ、今回、陸上選手を被験者とし、動画を手がかりにした外的イメージから内的イメージへの変換過程がパフォーマンスの修正に及ぼす影響について検討した。
【対象】陸上経験5年以上の健常陸上選手25歳女性。安静時心拍数(単位:回/分)62。
【方法】MI訓練前に外的イメージとして用いる動画は、模範とする選手のフォームとし、それを基に修正するフォームを設定した。MI訓練中は外的イメージにより得られたフォームを内的イメージにて想起させ加速するよう指示を与え、MI訓練後、実際に走行させ、動画を撮影し被験者のパフォーマンスを確認した。また、内的イメージ想起の指標として、ジョギングレベル時と加速時の心拍数を走行時とイメージ想起訓練時のそれぞれで測定し、MI訓練前,MI訓練中およびMI訓練後の3条件にて心拍数の測定を行い、比較検討した。動画撮影にはOLYMPUS750、心拍数測定にはNIKEWATCHを使用。
【結果】安静時心拍数62、訓練前(1)ジョギングレベル時100、(2)加速時124。訓練中(1)72、(2)81、訓練後(1)96、(2)114であった。パフォーマンスの変化としては、被験者が修正フォームとして設定したフォームに変化が得られた。訓練終了後被験者より、訓練中において「地面に足が接地する感覚が得られた」等の内省報告が得られた。
【考察】今回、陸上選手に対しMIを用いることで走行フォームを改善させることが可能であった。パフォーマンスの変化が得られた要因として内的イメージ時に心拍数が上昇していること及び実験後上記の内省報告が得られており、活動時と同様の筋感覚を得ることが可能であったことが考えられる。この内的イメージに対し内藤は、スポーツ選手において前頭前野や一次運動野を活動させイメージ想起することに優れていることや、運動を学習し、運動を脳内シミュレーションすることで使用される四肢に対応した運動領野の再現ネットワークが賦活することを明らかにしている。内省報告と心拍数上昇から内的イメージの鮮明性が得られ、MI訓練による運動領野の再現ネットワークの賦活が修正フォームを獲得する要因となったと考えられる。しかし、中込らにより、イメージ想起は個人差として前提条件があり、課題に対する先行体験の有無やイメージ能力が影響すると報告されており、今回MI訓練時の心拍数の変化が少なかったことから、被験者のイメージ想起の経験不足による内的イメージの鮮明性の低下が考えられる。