理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 218
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理学療法基礎系
言語的KRの頻度が握力学習に与える影響
岩城 隆久嘉戸 直樹伊藤 正憲鈴木 俊明
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キーワード: 運動学習, KR, 握力
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抄録
【目的】学習を向上させるには結果の知識(knowledge of results:KR)が必要である。運動学習においてKRのタイプや付与する時期、回数などは学習に影響を与えると言われている。そこで今回、KR頻度が握力学習に与える影響について検討している。
【方法】対象は、本研究の参加に同意を得た健常人23名(男性16名、女性7名、年齢25.3±2.1歳)とした。本研究では被験者の利き手最大握力の50%握力を目標値とした。KRは目標値の上下2%誤差範囲を正答KRとし、その範囲内の試行であれば「正答」、目標値より低い場合は「下」、目標値より高い場合は「上」という言語的KRを用いた。対象者は学習の全試行にKRを付与する群(100%KR群)、2試行に1回KRを付与する群(50%KR群)、3試行に1回KRを付与する群(33%KR群)、KRを付与しない群(0%KR群)に無作為に分けた。実験手順は学習前試行、学習試行、学習後試行の順に行った。学習前試行はKR付与のない状態で目標値握力を5試行し、次の学習試行では4種類の異なるKR付与頻度条件に準じて10試行を3セット行い、その後、学習後試行は学習前試行と同様に5試行実施した。握力測定はデジタル握力計GRIP-D(竹井機器工業株式会社)を使用し、文部科学省の体力測定における握力測定法に準じて実施した。学習前・後試行の目標値と実測値とのずれとしてConstant Error(CE)を算出し、目標値に対するパーセンテージとなるようにNormalized Constant Error(NCE)への正規化を行った。統計学的分析は一元配置分析法と多重比較検定法(Tukey‐Kramer法)を用いた。
【結果】学習前試行の群間比較は有意差を認めず、各条件の学習効果の比較は意味のあるものと言える。学習後試行のNCEは50%KR群、33%KR群、100%KR群、0%KR群の順に小さいことが示された。なお、50%KR群と0%KR群のみ有意差(p<0.05)を認めた。
【考察】結果から学習を向上させるには言語的KRが必要であるため、0%KR群は学習として成立せず、基準の無い予測のみで試行していることになる。100%KR群は学習試行中の過剰なKRによってKRに依存的になるため、学習に必要な内的モデルとの照合と誤差の検出が不十分となり学習が進まないという傾向を示した。50%KR群に関してKRの付与が有効的に働いたと推測された。学習の成立には、まず内部モデルによって試行し、KRの付与によって内的モデルで試行した運動感覚との照合、誤差の検出を行う。そして新たに内部モデルを修正し、次の試行へと進む。50%KR群は2試行に1回のKR付与であるため、内的モデルとKRの確認が交互に行われ、より正確な学習が効率的に強化されたと考えられた。
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© 2008 日本理学療法士協会
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