理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 220
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理学療法基礎系
感覚情報の変換過程が運動のなめらかさに及ぼす影響
加速度計を用いた平均情報量の算出による検討
奥埜 博之福本 貴彦中野 英樹三鬼 健太信迫 悟志塚本 芳久森岡 周
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抄録
【目的】動作の円滑さを客観的に示す指標として、小島ら(2006)は動作中の加速度変化の周波数解析結果を、確率曲線に見立てて算出する平均情報量(entropy)を用いることで、加速度計単独で動作の円滑さを客観的に示す視標になりえることを報告している。平均情報量とは、ある事象における情報の無秩序さ・あいまいさ・不確実さをあらわす尺度であり、運動中の平均情報量が高値を示すほど「なめらかさ」が損なわれていることを意味する。先行研究において、若年健常者と高齢者の検討やパーキンソン病患者での検討、外部の対象物の違いによる検討が行われているが、感覚情報の変換過程による違いは十分検討されていない。そこで、今回は視覚誘導性の課題と視覚情報から体性感覚情報への変換課題において、運動の「なめらかさ」ついて検討したので報告する。
【方法】本研究に同意を得た20代の健常者10名が実験に参加した。開始肢位は躯幹座位にて下腿下垂位で行い、課題1、2ともに外部観察上同様の運動となるように設定した。プロトコールは実験者の合図を基に任意に行なうものとした。課題1;目標点(膝が完全伸展位となる位置)につま先をあわせるように膝の伸展運動を行う。(視覚誘導性課題)課題2;閉眼にて股関節・膝関節・足関節が一直線上になるよう指示し、膝の伸展運動を行う。(視覚情報から体性感覚情報への変換課題)あらかじめ、脛骨外果に3軸加速度センサー(MicroStone社製)を取り付け、運動中の5秒間をサンプリング周波数100Hzにて測定した。得られた3軸の加速度データの二乗平方根和を算出したものを解析の対象とし、高速フーリエ変換にて周波数解析し、平均情報量を算出した。課題1と課題2の比較に関してはWilcoxon signed-rank testを用いて、それぞれ5施行の平均値を用いて行なった。統計処理計算は、Dr.SPSS2(SPSS社製)を用い、周波数解析および平均情報量の算出にはTRIAS(DKH社製)を用いた。
【結果】平均情報量を用いたなめらかさは、課題1は4.05±0.54(bit)、課題2は4.30±0.54(bit)と課題1が課題2と比較して有意になめらかな運動であった(p<0.05)。
【考察】課題1の平均情報量が有意に低かったことから、課題2よりも1がなめらかな運動であることが判明した。これは視覚誘導性課題がなめらかに遂行可能であったことを示しており、健常者を対象にした場合は、視覚座標系から関節座標系への座標変換とそれに基づく運動の出力が非常に円滑に行なわれていると考えられる。課題2のなめらかさが損なわれた要因としては、視覚を遮断することによって視覚情報を体性感覚情報へと変換する過程が困難であったと考えられ、このような情報処理過程の違いが運動のなめらかさに影響を及ぼすことが示唆された。
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© 2008 日本理学療法士協会
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