理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 221
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理学療法基礎系
加齢と運動の認知的制御における心的時間との関係
小松 由実大平 雄一大西 和弘西田 宗幹
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抄録
【はじめに】
近年の脳イメージング研究により運動イメージの脳内表象が明らかになっている。日常生活動作には単純な運動制御のみではなく、運動の認知的制御が要求される。高齢者では運動制御そのものよりも、運動の認知的制御における能力が低下することが明らかになっている(Welford,1982)。また、運動の認知的制御を要求される行為は単純な運動制御に比べて小脳が賦活することが報告されている(Kim,1994)。運動イメージにおける時間的側面の評価指標として心的時間測定法がある。心的時間が運動実行時間と一致し心的時間においてもFittsの法則が認められる(Decety,1996)。加齢による運動の認知的制御における心的時間への影響を検討した報告は極めて少ないのが現状である。本研究では、加齢と運動の認知的制御における心的時間との関係について調査することを目的とした。
【対象及び方法】
対象は21歳~71歳の健常者63名(男性22名、女性42名)とした。各年代の内訳は20代35名、30代5名、40代6名、50代6名、60代10名、70代1名であった。
運動課題にはペグボード(酒井医療社製SOT-2101)を用い、単純運動課題(以下、単純運動)、認知的制御を要求される運動課題(以下、認知運動)を設定した。単純運動は10本のピンを単にボードの穴に挿す課題とし、認知運動は数字でマーキングされた10本のピンをボードの対応する数字の穴に挿す課題とした。デジタルストップウォッチを用い、それぞれ実際の運動実行時間、心的時間を測定した。心的時間は被験者の合図をもとに検者が測定した。各々の測定を3回実施しその平均値を採用した。運動実行時間と心的時間の一致度として心的時間/運動実行時間の比率を求めた。年齢と単純運動、認知運動の実効時間及び心的時間、一致度との関係にピアソンの相関係数を用い、有意水準5%とした。
【結果】
年齢と単純運動の実行時間には有意な相関関係は認められなかった。年齢と認知運動の実行時間には有意な正の相関関係を認めた(r=0.37, p<0.0025)。年齢と単純運動及び認知運動の心的時間には有意な相関関係は認めなかった。年齢と実行時間、心的時間の一致度との関係については、単純運動では有意な相関関係は認めないものの、認知運動では有意な負の相関関係を認めた(r=-0.29, p<0.022)。
【考察】
本研究結果より、認知運動の実行時間は加齢に伴い延長するのに対し、心的時間は加齢に伴う延長は認められず、実行時間と心的時間との間に乖離が生じていることが示唆された。そのため認知運動において実行時間と心的時間の一致度は加齢に伴い低下した。認知的な制御を必要とする環境、課題設定下での治療介入をする必要性があり、実際の運動機能と運動イメージのズレを認識することが重要であると考える。
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© 2008 日本理学療法士協会
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