理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 234
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理学療法基礎系
熱刺激による骨格筋肥大におけるサイトカインシグナルに関する基礎的研究
大野 善隆後藤 勝正
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キーワード: 熱刺激, NF-κB, 筋肥大
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抄録

【目的】加齢に伴う筋肉量の減少ならびに筋力の低下(加齢性筋肉減弱症:サルコペニア)の予防と症状改善のため、高齢者に対して筋力トレーニングが奨励されている。しかし、筋力トレーニングは過負荷の原則に基づくため、高齢者にはリスクが大きい。したがって、安全かつ効率的な筋力トレーニング法の早期開発が望まれている。最近、過負荷の原則に依存しない筋力増強法が報告されている。その中の1つに、熱刺激の負荷による筋力増強法がある。熱刺激に対する筋細胞の応答に関しては、筋細胞の肥大と軽運動との組み合わせによる効果の増大、負荷除去に伴う筋萎縮の抑制、そして廃用性筋萎縮からの回復促進なども報告されている。したがって、熱刺激はサルコペニアの予防と症状改善に有効な方法であると考えられるが、熱刺激による筋肥大の分子機構は明らかでない。転写因子の1つであるnuclear factor-κB(NF-κB)は、サイトカイン(TNFα、IL-1)などの刺激によって活性化する。このNF-κBの活性化は、骨格筋分化の抑制およびタンパク質分解に関与することが報告されており、骨格筋細胞の可塑性発現に寄与していると考えられる。しかし、熱刺激に対するNF-κBの応答ならびに骨格筋肥大の関連性は明らかでない。そこで本研究は、熱刺激によるNF-κBの応答について検討し、熱刺激による骨格筋肥大におけるNF-κBの関与を明らかにすることを目的とした。
【方法】実験対象には、マウス骨格筋由来筋芽細胞C2C12を用い、熱刺激群及び対照群を作成した。筋芽細胞を播種し、筋芽細胞に分化させ、筋管細胞に熱刺激を負荷した(熱刺激群)。熱刺激条件は41°Cの環境温に60分間の曝露とした。同じ期間に熱刺激を負荷せず、培養した細胞を対象群とした。この熱刺激後、直後および24時間後に細胞を回収した。回収した細胞のタンパク量、NF-κBの応答を測定し、評価した。また、細胞を分画ごとに回収し、各分画におけるNF-κBの応答を検討した。
【結果】熱刺激負荷24時間後、筋タンパク量の有意な増加が認められた(p<0.05)。また、熱刺激後、NF-κBの発現量の有意な減少が認められた(p<0.05)。しかし、熱刺激負荷24時間後には対照群のレベルまで増加した。
【考察】熱刺激によって引き起こされる筋タンパク量の増加は、NF-κBの発現量の減少を伴うものであった。熱刺激による筋タンパク量増加の一部は、NF-κBシグナルを介したものであることが示唆された。
【まとめ】熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明により、安全かつ効率的な筋力トレーニング法の早期開発が可能となり、高齢者の健康維持及びリハビリテーションへ貢献が大きいと考えている。

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© 2008 日本理学療法士協会
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