抄録
【はじめに】
肩甲骨面とは、上腕骨頭と関節窩の適合が最適となり、様々な評価手技やリハビリテーション治療を行う際に最適な位置である。臨床において、肩関節疾患の患者に理学療法を施行する際、関節包への負荷を軽減できる肩甲骨面上での評価や治療は非常に重要になる。一般的に、快適な上肢挙上(快適挙上)は、肩甲骨面挙上と考えられ、効率の良い運動であると捉えられている。我々は、快適挙上は、挙上角度と水平内転角度の増加に正の相関関係があることを報告した(第3回肩の運動機能研究会:2006)。また、高濱らの肩甲骨面に関する研究と比較し、快適挙上とは肩甲骨面挙上と類似した運動軌跡であることを確認した。今回は、肩甲骨面挙上と快適挙上の運動軌跡について肩関節水平内転角度を中心に研究することを目的とした。
【方法】
実験に対し同意を得た健常女性20名(右20肩)を対象とした。平均年齢25.9±3.5歳・平均身長158.2±3.3cm・平均体重49.4±2.9kgであった。検者は、臨床経験8年目の理学療法士とした。開始肢位は、端坐位にて体幹中間位、肩下垂位、肘伸展位、前腕回内外中間位とした。被験者の手部にビニール手袋をはめ、メジャーを第5中手骨底部と椅子の支柱(肩峰より下ろした垂線上)に貼り、挙上角度制限を30°・60°・90°・120°・150°に調節した。快適挙上時の水平内転角度の計測方法は、被験者に肩関節を開始肢位より肘伸展位、前腕回内外中間位を保持させた状態で数回自動挙上させた。被験者自身が快適と感じる挙上位にて自動保持させ、角度計にて水平内転角度を計測した。水平内転角度は各挙上角度5回ずつ計測し、最大及び最小値を除いた3回の平均値を採用した。一方、肩甲骨面挙上時の水平内転角度の計測方法は、第42回日本理学療法学術大会と同様とし、各挙上制限角度において、検者が肩甲骨面と感じる角度にて保持し計測した。統計処理は2つの水平内転角度の相関関係についてPearsonの積率相関係数をした。
【結果】
挙上30°・60°・90°・120°・150°の順に、水平内転角度の相関係数は0.89・0.90・0.87・0.91・0.88であった。快適挙上時の平均水平内転角度は41.5°・53.8°・64.5°・69.3°・71.5°、肩甲骨面挙上時の平均水平内転角度は40.8°・52.5°・64.0°・68.0°・70.8°であった。
【考察】
本研究より、肩甲骨面挙上と快適挙上における水平内転角度は強い相関があり、同様の運動軌跡であると捉えていいことが改めて確認された。このことは、日々の臨床において、肩関節疾患の患者を評価・治療する際、非常に有用な指標となる。inner muscleや肩甲帯周囲筋群などの筋力低下がある患者や痛みが強く自動運動が困難な患者には、理学療法士が他動的に肩甲骨面を探す。逆に防御的収縮や逃避性収縮が起き他動運動が困難な患者には、快適挙上を行ってもらうことにより、患者ごとの肩甲骨面を臨機応変に捉えることができると考えられる。