理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 656
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理学療法基礎系
褥瘡発生に関与する遺伝子の実験モデルによる解析
黒瀬 智之橋本 将和小澤 淳也川真田 聖一
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抄録

【目的】褥瘡は主として臨床的に検討されてきたが、患者の身体状態は各人でかなり異なる。また、試料の採取が困難なため、褥瘡の発生機序はよく分かっていない。そのため、ラットで褥瘡の実験モデルを開発し、持続的な圧迫によって発現が変動する遺伝子を、マイクロアレイとリアルタイムPCRを用いて調べることを目的とした。
【方法】Wistar系雄性ラットをペントバルビタールで麻酔して仰臥位とし、下腹部を横切開して腹膜腔に幅25 mmの鉄板を水平に剣状突起まで挿入した。鉄板で支えた前腹壁に、底面が20 ×25 mmで100 mmHgの圧力に相当する重さ680 gの鉛四角柱を置いて腹壁を鉄板と重りで挟み、100 mmHgで4時間圧迫した。圧迫開始から計測して、12時間、1、3、7日後に、ラットを屠殺し、腹壁を採取した。対照として、無処置の正常ラットから同じ部位の腹壁を使用した。各試料はホモジナイズした後、total RNAを抽出し、RNAが良質であることをバイオアナライザーで確認後にマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイには、Affymetrix社のGeneChip@ Rat Genome 230 2.0 Arrayを使用した。その後、マイクロアレイで変動が大きく増加した遺伝子の中から、炎症に関連するIL-1αやIL-1β、IL-10、TNF-αを選び、リアルタイムPCRを用いて定量的に調べた。また、上記条件で圧迫した腹壁の凍結切片を作製し、組織学的に検討した。
【結果】マイクロアレイ解析で調べた31,000個の遺伝子のうち、処置して12時間後には240個の遺伝子で、1日後には877個の遺伝子で、発現量が2倍以上に増加していた。リアルタイムPCR で調べると、IL-1α、IL-1β、IL-10とTNF-αは、どの遺伝子も12時間と1日後には増加したが、3日後から次第に減少してもとの発現レベルに落ち着いていった。12時間と1日後に皮膚の浮腫や筋の壊死が観察されたが、7日後には組織はかなり修復していた。
【考察】持続的な圧迫は褥瘡発生の主因と考えられるが、ラットを用いて厳密な実験条件で調べることができた。圧迫後、マイクロアレイにより遺伝子発現を網羅的に調査し、発現量が大きく変動する遺伝子を絞り込むことができた。その中から、炎症に関連した遺伝子を選んでリアルタイムPCRで解析したところ、マイクロアレイの結果が確認できた。これらの遺伝子は、圧迫3、7日後には、正常と同程度の量になったことから、褥瘡発生の初期に関わっていると考えられる。
【まとめ】遺伝子発現を網羅的に調べて、褥瘡発生の初期に発現量が大きく増加する遺伝子が同定された。これらの遺伝子発現の変化を褥瘡の状態と比較しながら経時的に調べることにより、褥瘡の発生や治癒の機序解明が進むと考えられる。

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© 2008 日本理学療法士協会
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