抄録
【目的】
近年高齢者における転倒予防対策として下肢筋力訓練が重要視されている。しかし、バランス評価で重要とされている重心動揺測定の結果と下肢筋力との関連についての報告は少ない。そこで今回、健常人における重心動揺と角速度の異なる等速性下肢筋力を測定し、その関連性を明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】
健常男子28名、平均年齢20.3±1.1歳、平均身長172.8±5.9cm、平均体重72.3±5.9kg。
重心動揺測定は、ゼブリス社製重心動揺計を使用し目線の高さで2m前方を注視させ、開眼、閉眼にてそれぞれ20秒間の片脚立位保持を行った。評価項目としては、総軌跡長(以下SPL)、外周面積(以下AoE)とした。下肢筋力測定は、COMBIT CB-2(ミナト医科学)にて等速度運動下(角速度60゜/sec、180゜/sec、300゜/sec)で膝伸展筋力、膝屈曲筋力を各々5回測定し、左右の最大膝伸展、屈曲筋力を求めた。統計処理は、対応のあるt検定とピアソン相関係数を用い、有意水準は5%とした。
【結果】
1)開眼片脚立位・閉眼片脚立位でのSPL・AoEを、それぞれ左右間で比較を行った結果、閉眼片脚立位でのSPLが、右512.9±124.8cmに対して左は471.1±97.1cmであり、有意な差が認められた(p<0.05)。2)膝伸展・屈曲筋力の左右比較では、全ての角速度で差は認められなかった。3)開眼時・閉眼時のSPL・AoEと膝伸展筋力・膝屈曲筋力では、左右全てにおいて有意な相関関係は認められなかった。
【考察】
本研究では、健常人の開眼・閉眼にてSPL・AoE、膝伸展筋力・膝屈曲筋力を左右ともに計測を行い、それぞれ比較を行った。その結果、重心動揺と角速度の異なる膝屈伸筋力との関連性では、左右ともに相関関係は認められず、また角速度の異なる筋出力に依存する傾向も認められなかった。このことから、一定以上筋力があると思われる健常人については、重心動揺と膝屈伸筋力との関連性は見い出しにくいものと考えられる。先行研究では固有感覚などの影響を考察し、下肢筋力はその因子を保障しているという報告もある。下肢筋力が高値であればバランス機能の向上が期待できるという背景に対して再考していく必要があると考える。
今後においては、ADLの自立している高齢者、または下肢機能に既往のある者を対象とし、重心動揺と下肢筋力との関連性を明らかにすることを検討課題とする。