理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 840
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理学療法基礎系
健常成人の立ち上がり動作と膝屈・伸筋力,HQ比の検討
山崎 祐司谷口 千明森川 真也
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抄録
【目的】膝関節伸展筋力(以下,伸展筋力)は,諸動作能力と密接に関連する重要な筋力であり,ハンドヘルドダイナモメータ(以下,HHD)を用いた測定法(加藤ら)が数多く報告されている.しかし,対象者が有痛性の関節疾患を伴う場合,測定時に関節の痛みを訴えこれが嫌悪刺激となり測定拒否をまねく経験が少なくない.一方で,膝関節屈曲筋力(以下,屈曲筋力)測定(柏ら)の際は痛みを伴わないことも経験する.そこで伸展筋力測定時に二次障害が予測される方に対し,動作能力に必要な下肢筋力を嫌悪刺激の伴わない屈曲筋力を用い推測できれば,有用な判断値になると考え,今回先行研究として健常成人を対象に膝屈伸筋力を反映した動作として30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)を用い,屈曲筋力と伸展筋力,及びそれらのバランス値(Hamstrings/Quadriceps ratio:以下,HQ比)との関連を検討した.

【対象および方法】健常成人52名(男性24名,女性28名),年齢21~54歳(平均29.7±8.1歳).評価項目は年齢,BMI,CS-30,伸展筋力,屈曲筋力,HQ比について調査した.屈伸筋力測定にはHHD(アニマ社製μTas F-1)を用い,加藤・柏らの測定方法に準じた.CS-30の結果は性別年齢階級別評価表(木村)を用い,「やや優れている」以上をA群(34名),「ふつう」以下をB群(18名)の2群に到達度分類した.分析には,2群間の比較をMann-whitney U検定.評価項目の関連はピアソンの相関係数を用いた.危険率は5%未満を有意水準とした.

【結果】屈曲筋力はA群0.41±0.12kg/kg,B群0.29±0.08kg/kgとA群で有意に高値を示した(p<0.001).同様に伸展筋力も有意にA群で高値を示した(p<0.001).その他の項目では有意差を認めなかった.相関をみると,屈曲筋力と伸展筋力の間 (r=0.768),および屈曲・伸展筋力とCS-30の間 (r=0.498,r=0.560) で有意な正の相関を認めた(p<0.001).HQ比は伸展筋力との間(r=-0.444,p<0.001)でのみ有意に負の相関を認めた.

【考察】動作能力の向上に伴い屈曲筋力も伸展筋力と同様に高まっており,両者の関連性が推察された.HQ比は伸展筋力との間で負の相関を示した.これは本研究での屈曲筋力値の上限が約30~35kg域(実測値)に止まったことから,HHDの測定限界域と考えられた.つまり,屈・伸筋力間は正相関を示すが,屈曲筋力が先の限界域に達すると伸展筋力との差を生じ,結果としてHQ比が低値を示したと考えられた.山本は姿位や角度の違い等で値が変動すると指摘しており,HHDを用いた測定方法には検討の余地があると思われた.今後,高齢者を対象に検討を加え屈曲筋力,HQ比の基準値を示し動作能力を判断する一助に繋げていきたい.

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© 2008 日本理学療法士協会
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