抄録
【目的】近年,簡便な身体組成評価法の1つとして,生体電気インピーダンス法(Bio-electrical Impedance Analysis;BI法)を用いた身体組成計が注目されている.BI法を用いた身体組成計は,骨格筋量や脂肪量などを簡便に計測することが可能であり,さまざまなフィールドに普及しつつある.しかしながら,BI法を用いた身体組成計に関する研究は,測定器の妥当性や信頼性に関する報告が多く,身体組成計が示す測定値と筋力などの体力指標との関連性についての検討は十分に行われてはいない.そこで本研究は,健常成人を対象に身体組成(骨格筋量・脂肪量)と上・下肢最大筋力および四肢周径を測定し,それぞれの測定値の関連を分析することにより,BI法を用いた身体組成計の有用性について検討した.
【対象】対象は,健常成人37名(男性20名,女性17名),平均年齢20.8±1.5歳,平均身長165.3±7.9cm,平均体重59.6±9.1kgであった.これら被検者には,研究の目的と方法を十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した.
【方法】身体組成の測定には,4電極方式のデュアル周波数体組成計DC-320(株式会社タニタ社製)を用いた.測定方法は,被検者を測定器上で静止立位とし,周波数6.25kHzおよび50kHzの信号成分を含んだ電流を両足間より通電することで,身体組成値(骨格筋量および脂肪量)を計測した.上・下肢筋力は,利き手側の上腕二頭筋と,利き手と同側の大腿四頭筋について計測を行った.測定には,ハンドヘルドダイナモメーター(Jtech Medical社製Power TrackII)を用いて,最大等尺性収縮筋力を測定した.上・下肢筋力ともに2回ずつ測定を行い,最大値を代表値として採用した.四肢周径の測定は,上腕最大部および大腿中央部と膝蓋骨上方10cm部の3ヶ所とし,各2回ずつ測定を行い,その平均値を代表値として採用した.すべての測定値は性差を考慮し,性別における骨格筋量,脂肪量,上・下肢筋力,四肢周径の測定値をピアソンの相関係数を求めて検討した.
【結果】男女ともに骨格筋量と上・下肢筋力との間に有意な正相関(r=0.66-0.74,p<0.01)が認められた.また,上・下肢筋力は四肢周径との間にも有意な正相関(r=0.47-0.71,p<0.05)が認められたが,骨格筋量のそれと比べると低い相関であった.さらに,身体組成と四肢周径との間にも正相関(r=0.63-0.95,p<0.01)が認められ,なかでも女性は脂肪量と極めて高い相関(r=0.92-0.95,p<0.01)が認められた.
【考察】上・下肢筋力は四肢周径の測定値より,身体組成計が示す骨格筋量に反映されることが示唆された.また,四肢周径の測定値は,単純に筋力を反映するものとは考え難く,測定値の解釈には骨格筋以外の関連因子に配慮する必要性が推察された.