抄録
【目的】股関節術後のリハビリテーションにおいて,術後経過とともに,体重の1/3,1/2,2/3というように下肢への荷重量を増加させていく方法を用いることが一般的である.しかし,歩行補助具の選択と下肢への荷重量との関係を股関節合力の変化や歩行パターンの相違から検討した報告は少ない.そこで今回,2/3荷重における両松葉と片松葉における股関節への負荷の変化を,股関節合力や関節モーメント,筋張力から明らかにすることを目的に研究を行った.
【方法】健常成人7名(21±1歳)を対象として,全荷重,両側に松葉杖を使用した2/3荷重,片側に松葉杖を使用した2/3荷重歩行を三次元動作解析装置Vicon250(oxford metrics社製)および床反力計(キスラー社製)で計測した.歩行率は90歩/分とし,2mの床反力計と前後4mを含めた10mを歩行した.各荷重歩行の計測はランダムに各3回行った.その結果から,筋骨格モデル(労災リハビリテーション工学センター製)を用いたシミュレーションにより股関節合力,股関節周囲筋張力,関節モーメントを算出した.
【結果】全荷重歩行時の股関節合力は,立脚後期で最大となり,体重の3.9±0.6倍であった.2/3荷重歩行時の股関節合力は,両松葉では最大で1.4±0.5倍,片松葉では2.3±0.7倍となった.股関節合力は立脚前・後期ともに全荷重に比べ各松葉杖歩行で有意に減少したものの,後期では片松葉は両松葉より有意に高値を示した.股関節における前額面モーメントは,全荷重及び両松葉歩行では股関節外転モーメントが作用していたのに対し,片松葉歩行では股関節内転モーメントが作用していた.中殿筋張力は,立脚後期において全荷重に比べ各松葉杖歩行で有意に減少した.内転筋張力は,立脚後期において全荷重,両松葉と比較して片松葉では有意に高値を示した.股関節の回転中心となる立脚側大腿骨頭から床反力作用点(Center Of Pressure:COP)までの横方向距離(以下,骨頭・COP間距離)は全荷重と比べ両松葉・片松葉とも有意に減少した.
【考察】同じ体重の2/3という荷重量でも片松葉で股関節合力値が高くなった理由として,骨頭・COP間距離の関与が考えられる.両松葉の場合,支持基底面は両側へ広がり,なおかつ松葉杖がつっかえ棒のように作用するため重心,つまり骨盤の側方への移動が少ない.そのため,骨頭・COP間距離が減少し,右股関節外転モーメントも減少したのではないかと考える.片松葉の場合,支持基底面は左側へ広がるため,骨盤が左側へ過度に変位し,骨頭・COP間距離もマイナスの値となり,それに拮抗するため右股関節内転モーメントを発揮したのではないかと考える.以上の結果より,片松葉杖による2/3荷重歩行では内転筋活動の増加により,両松葉杖に比べて股関節合力が増加することが確認された.