理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1345
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理学療法基礎系
非荷重や不動による末梢神経の形態学的変化
藤本 太郎藤田 直人田崎 洋光松原 貴子荒川 高光三木 明徳
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抄録

【目的】ベッドレストやギプス固定による非荷重や不動は筋骨格系に重大な影響を及ぼす。しかし非荷重や不動による末梢神経系の形態変化を調べた報告は乏しい。末梢神経は皮膚や筋などの標的器官から求心性インパルスや神経栄養因子を感受することで維持される。よって標的器官が非荷重や不動に陥ると末梢神経系にも影響する可能性がある。そこで今回,後肢懸垂とギプス固定を2週間および4週間行うことで,非荷重や不動が末梢神経の有髄軸索に及ぼす影響を経時的に観察した。
【材料と方法】11週齢のddY系雄マウス18匹を用い,後肢懸垂のみを行った群(HS群),足関節を最大底屈位でギプス固定し後肢懸垂を行った群(HS-C群),同週齢の対照群(C群)の3群に分けた。各群をさらに実験期間2週間と4週間の2群に分けた。実験終了後,灌流固定を行い,大腿中央部の坐骨神経をエポキシ系樹脂に包埋した。約1µm厚の横断切片を作製し,トルイジンブルー染色後,光学顕微鏡にて観察を行った。各切片から300本以上の有髄軸索を無作為に抽出し,有髄軸索の横断面積と坐骨神経内の活性化したシュワン細胞数を計測した。統計処理は1元配置分散分析後,Scheffeの多重比較検定を行った。
【結果】C群では有髄線維が密接し,シュワン細胞の細胞質はほとんど観察されなかった。一方,HS群およびHS-C群では軸索間の大小不同が著明となった。また線維間隙が拡大し,膨化した細胞質を持つ活性化したシュワン細胞が確認された。実験2週間では,HS群の軸索横断面積が最も縮小し,他の2群と有意差を認めた。HS-C群とC群との間に有意差は認めなかった。また活性化したシュワン細胞数はHS群と比べHS-C群の方がより有意に増加していた。実験4週間では,HS-C群の軸索横断面積が最も縮小しており,次いでHS群がC群に比べ有意に縮小していた。実験4週間の軸索横断面積は実験2週間に比べ有意に減少していた。活性化したシュワン細胞数では,HS群は実験2週間の同群とほぼ同値であったが,HS-C群は実験2週間の同群と比べ実験4週では有意に減少した。実験4週間のHS群,HS-C群では,変性軸索や異常なミエリンを伴った軸索が観察された。
【考察】非荷重や不動により,末梢神経の有髄軸索が萎縮し,活性化したシュワン細胞が認められることが明らかとなった。有髄軸索の萎縮はインパルスの伝導速度低下を示唆している。また活性化したシュワン細胞は末梢神経損傷時,標的器官からの栄養を感受できない再生神経を栄養していることを示す所見である。よって,非荷重や不動により標的器官からの求心性インパルスや神経栄養因子の供給が阻害され,末梢神経障害が惹起される可能性が示唆された。これらの変化がギプス固定後の異常感覚や慢性痛の発症,運動の巧緻性低下に関与していると考えられた。

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© 2008 日本理学療法士協会
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