抄録
【目的】重量不明の物体を持ち上げる際,重量を予測し,運動イメージを想起してパフォーマンスをする.今回,重量不明物を持ち上げる際に過剰なKR を与え,重心動揺への影響についての検証を行うことを目的とする.
【方法】対象は男子学生31 名(平均年齢21.1±1.0 歳). KR を与える群(KR 群:20 名)とKR を与えない群(N 群:11 名)に分けた。被験者は重心動揺計(ANIMA 社製G-620)上に立位をとり, 肘を90°屈曲させ台の上にある荷物 (外見が同じバケツで重量を設定済み)の取手を把持する。重心動揺取込時間を10秒,開始から5 秒後に研究者が合図を出し,荷物を持ち上げ取込終了までその肢位を続けた.荷物の重量はKR 群で被験者の体重の5%,10%,1%,N 群では5%,1%の順で試行した.荷物の変更時,変更の情報を与えないよう, 閉眼で音楽を聞かせた.得られたデータの各々X・Y 軸方向の「動作開始から最大値までの重心移動距離」と「最大値から立ち直りによる最小値までの重心移動距離」の和を今回は重心動揺距離とし,そのデータから5%を基準として10%,1%各々の比較検証を行った.また,重心動揺距離からX・Y の総移動距離を抽出した.検定手法はWilcoxon test を用い,有意確率は5% とした.
【結果】1)重心動揺距離:X 軸方向:KR 群は5%で2.62±0.69cm_,1%は3.15±1.48cm_,N 群では5%は2.35±1.31 cm_,1%は1.63±1.28 cm_であった.5%に対する1%の比率は,KR 群1.35±0.77,N 群0.71±0.43 であった.KR 群に対してN群の重心動揺距離と比率で減少がみられた。Y 軸方向:KR 群は5%で4.61±1.54cm_,1%で5.10±2.75cm_,N 群では5%で4.91±1.69cm_,N 群では3.39±1.84cm_であった.5%に対する1%の比率は,KR 群1.61±0.71,N 群0.77±0.45 であった.KR 群に対してN 群の重心動揺距離と比率で減少がみられた。2) 総移動距離:KR 群の5%は5.35±0.69cm_,1%は6.12±2.86cm_であった.N 群の5%は5.63±1.56cm_,1%は4.10±2.53cm_であり,KR 群とN 群の5%で距離に有意差は無かったが,1%でKR 群とN 群で減少傾向がみられた.
【考察・まとめ】今回の結果,重量の提示をせずに過剰なKR を与えると,与えない場合と比べてその後の試行で過剰な重心動揺が起こった.またKR 群では1%試行時にKR の重量(10%)以上に重いものを予想した傾向が出た.これは,過剰なKR 付与によりその後の試行で過剰な想起・動作になったと考えられる.これらから理学療法士が患者に対してKR を与える際,患者に合った質と量を考えていく必要があるといえる.