抄録
【目的】脊髄損傷に伴う対麻痺や四肢麻痺に対する治療はリハビリテーション医学の分野で重要な部分を占めている。その治療に関しては困難なことが多く重篤な機能障害が残存することが多い。中枢神経軸索の再生能力は、従来、きわめて乏しいと考えられてきたが、近年の研究により、軸索の再生を促進する生理活性物質やグリア細胞の環境、細胞体の逆行性変性を防ぐような神経栄養因子に関する研究の成果により、条件がよければ著明な再生を起こすことが明らかとなってきている。本研究の目的は成長因子であるミッドカイン(MK)の発現動態を確認し、グリア細胞と神経再生との関係を明らかにすることである。
【方法】実験動物には雌のC57BL MK ノックアウトマウス(MK-/-)と野生型(MK-/-)を各24匹使用した。マウスに4%包水クロラール溶液(10ml/kg)を腹内投与し麻酔後、第8-9胸椎の椎弓を除去後、メスで脊髄の右半側を切断した。術後1、3、5、7日、各6匹ずつ深麻酔下にて灌流固定後、脊髄を取り出し、1晩浸漬固定した。損傷部を中心に吻側と尾側に2mm間隔で切断し、パラフィン包埋した。包埋した組織は5μmの厚さで連続横断切片を作製し、免疫組織化学染色を行い、光学顕微鏡でMKの発現とグリア細胞の組織学的変化を経時的に観察した。本実験は鹿児島大学医学部動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】ノックアウトマウスではMKの発現はみられず、野生型では損傷後5日に発現がピークであった。反応性アストロサイトの発現のピークはノックアウトマウスでは損傷後5日であったのに対し、野生型では損傷後3日だった。
【考察】成長因子MKは、ヘパリン結合性成長因子であり、神経細胞の突起伸張や生存促進、抗アポトーシス作用、血管新生能などの作用を持っている。脳梗塞や脊髄損傷後早期に損傷部周辺にも強く発現し、組織の修復と再生に深く関与し、MKが神経細胞脱落を抑制することが明らかとなっている。今回、MKは5日後で最も強く発現し、損傷部周辺で観察された。また、反応性アストロサイトも損傷部周辺に発現した。反応性アストロサイトは損傷部周囲で損傷の治癒、血液脳関門の修復、炎症抑制などの作用があると報告されている。MK有無で反応性アストロサイトの発現ピークに違いが出たことから、MKが反応性アストロサイトの活性化に関与していると考えられる。
【まとめ】以上のことにより、MKの欠如が反応性アストロサイトの活性化を遅らせる可能性が示唆された。