理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1497
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理学療法基礎系
健常成人の呼吸運動と肋間距離の変化について
池田 早都子北出 舞黒田 晴香酒井 展子坪井 知佳子中神 明子中 徹
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キーワード: 肋間距離, 胸郭, 呼吸運動
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抄録

【はじめに】 呼吸理学療法は適応範囲が幅広くなってきており、呼吸運動機能を評価することは重要である。現在行われている評価方法では、胸郭の特徴的な運動性や部位による運動の違いまでは詳細に評価できない。そこで胸郭の運動性を示す新たな指標がないかと考え、呼吸運動に伴う肋間距離の変化に着目した。今回、種々の部位で肋間距離を測定し従来の呼吸機能評価法と検討した結果、いくつかの知見が得られたので報告する。
【方法】 被験者は健常成人12名(男女各6名、21.5±0.52歳)。超音波診断装置を用い、安静および最大呼吸時の右胸郭における前・側・後面の第2・3肋間と第7・8肋間で肋間距離(mm)を測定した。また腋窩・乳頭・剣状突起・腹部中央の高さにおける体幹周径、肺活量(VC)・一回換気量(TV)も測定した。実測値および呼気時に対する吸気時の変化率(%)で検討を加えた。
【結果・考察】 抄録では代表的な値のみを示す。(a)男性の胸郭前面における第2・3肋間距離の安静呼吸時を呼気/吸気の順で表すと23.2±6.3/22.5±5.9、最大呼吸時では24.4±6.7/20.2±5.5、第7・8肋間距離の安静呼吸時は17.9±3.0/19.3±3.2、最大呼吸時では15.1±2.5/22.8±3.1であった。(b)吸気時に第2・3肋間距離は狭まり、第7・8肋間距離は広がる(p<0.05)。肋骨は呼吸補助筋と肋間筋により挙上すると同時に鎖骨や腹筋群の影響を受けるためと考える。(c)胸郭側面の第2・3肋間距離では吸気時に広がり、呼気時に狭まる(p<0.05)こともわかった。(最大呼吸、男性、第2・3肋間側面、実測値: 9.1±2.0/17.2±2.6)(d)胸郭後面での肋骨の動きはあまり見られなかった。後面は半関節である肋椎関節から近いため動きが小さいと考える。(最大呼吸、男性、7・8肋間後面、実測値: 16.6±2.0/16.1±2.5)(e)胸郭前・側・後面を比較すると側面の動きが最も大きい(p<0.05)。これは胸郭側面が、脊椎および胸骨から最も離れており、動きの自由度が高いためだと考える。(最大呼吸、男性、第7・8肋間側面、変化率:110.6±35.2%)(f)(6)第2・3と7・8肋間距離には相関がみられなかった。よって、上・下位の肋骨の動く量に関しては一定の関連性がないといえる。(g)体幹周径変化率およびVC・TVと肋間距離の間にも相関がみられなかった。このことから、肋間距離の変化を呼吸機能の指標として利用するにはまだ問題が多いといえる。
【まとめ】 今回の測定より、呼吸運動に伴い肋間距離が変化することから、肋骨の動きの大きさや方向は部位によって異なることがわかった。このことは呼吸介助方法に根拠を与えるかもしれない。一方、肋間距離の変化を呼吸機能の指標として利用することは難しいこともわかった。今後は脊柱の動きとの関連性だけでなく、臨床における脊柱の変形との関連性の検討を加えた上で、肋骨と呼吸機能の関係性について深めていきたい。

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© 2008 日本理学療法士協会
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