理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1549
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理学療法基礎系
認知問題の介入が運動イメージ想起における脳活動に及ぼす影響
fNIRS研究
三鬼 健太中野 英樹生野 達也信迫 悟志塚本 芳久森岡 周
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抄録
【目的】運動イメージと実際の運動遂行は共通の神経基盤を有している。この神経科学的根拠に基づき運動イメージが理学療法介入手段として注目されている。運動イメージは心的表象の一つである(Jeannerod 1984)。心的表象とは、ある課題を解決するための脳内に存在する知識を活性化する過程であるが、同じ行為をイメージする場合でも感覚モダリティが複数存在することから、心的表象も複数存在するという仮説が提示されている(Perfetti 2005)。その仮説を検証するために、同じ運動のイメージ想起においても、その過程で認知問題に基づく解釈作業を介入することで、運動イメージに関連する領域の活性化に違いが起こるかを、脳イメージング装置を用い検討する。
【方法】本研究に同意を得た20代の健常成人6名(男性5名,女性1名)を対象とした。次の3つの条件下で脳血流量の測定を行った。条件1:実験者が他動的に、被験者の右足関節を背屈する事で踵部にスポンジを接触させ、その触圧覚に基づいた右足関節背屈の運動イメージを想起する。条件2:認知課題施行後、課題の解決に使用した触圧覚に基づいた右足関節背屈の運動イメージを想起する。条件3:言語教示にて右足関節運動覚に基づいた背屈の運動イメージを想起する。条件1と2の間で次の認知課題を施行した。課題は実験者が他動的に被験者の右足関節を背屈し、踵部にスポンジ(硬さの異なる2種類)を接触させて、その硬さの違いを「軟らかい」「硬い」の言語で解答させた。脳血流量の測定には機能的近赤外光イメージング装置(fNIRS FOIRE3000 島津製作所)を使用し、3条件の酸素化ヘモグロビン値(以下oxyHb)を抽出した。統計学的処理は統計ソフトDr.SPSSII(SPSS Inc.)を使用し、一元配置分散分析およびBonferroni の多重比較検定を用いた(有意水準5%)。またfusion imagingソフト(島津製作所)を用いてMRI画像に重ね合わせ、脳マッピングを行った。
【結果】条件1および3と比較して、条件2において両側前頭前野、左運動前野、運動性言語野の有意なoxy Hbの増加が認められた(p<0.05)。
【考察】認知課題後の条件2における前頭前野の活性化は、認知課題を介入した事で、運動イメージ想起時にも、情報の選択・保持・操作というワーキングメモリの働き(澤口2005、森岡2006)が作動したと考えた。また、左運動前野や運動性言語野の活動増加は、高次運動領野での予測と実際の比較・照合作業(認知問題)を行った事で、触圧覚情報に基づいた運動イメージの想起がし易くなった可能性が示唆された。一方、条件2と比較して条件3における運動イメージ関連領域の活動の減少は、触圧覚情報の予測を形成した後では、同じ運動であっても運動覚情報に基づいたシミュレーションへの切り替えが困難であった事が考えられた。本研究により、同じ行為あるいは運動であっても、複数の運動イメージ形成が存在する事が示唆された。
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© 2008 日本理学療法士協会
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