抄録
【目的】呼吸周期において換気量や呼吸数を一定に保ち,吸気時間と呼気時間を変化させた際の自律神経活動や呼吸循環応答に対する影響を検討した報告は極めて少ない.我々は,健常者において吸気時間と呼気時間が2秒:4秒の呼気延長呼吸のまま無酸素性作業閾値(AT)の60%強度の運動を行うと,副交感神経活動は賦活化し過剰な心循環応答を抑制したが,AT強度の運動ではその効果は認められなかったことを報告した.しかし,このような呼気延長呼吸の効果がどの程度の運動強度まで認められ,さらに運動後も持続するか否かは不明である.そこで,本研究では呼気延長呼吸が漸増負荷運動中および運動後における自律神経活動と呼吸循環応答に与える影響について検討した.
【方法】健常男性5名(平均22歳)を対象に,同一被験者が吸気:呼気が2秒:4秒(呼気延長群)と3秒:3秒(同比率群)および自然呼吸(自然呼吸群)の3種類の呼吸様式によって,自転車エルゴメータ(StrengthErgo240,三菱電機エンジニアリング)を用いた毎分20Wの漸増負荷運動を行った.プロトコールは安静10分,ウォーミングアップ3分,漸増負荷運動,クールダウン3分,運動後安静10分の順で行った.呼吸様式の順番は乱塊法を用いて決定し,それぞれの運動は24時間以上の間隔を空けて同一時刻に実施した.呼気ガス分析器(AE300S,ミナト医科学)で酸素摂取量(V(dot)O2),二酸化炭素排出量(V(dot)CO2),分時換気量(V(dot)E),換気当量(V(dot)E/V(dot)CO2)を,連続指血圧計(Finometer,FMS)で収縮期血圧(SBP)を,ホルター心電図(FM120,フクダ電子)で心拍数(HR)を測定し,V-slope法によりATを求めた.また副交感神経活動は,運動中の最高HRから運動終了1分後HRを引いたheart rate recovery (HRR)と心拍変動解析(MemCalc,GMS)による高周波成分(HF)を用いた.
【結果】3群間の安静時の各指標とATおよびpeak V(dot)O2, peak work rateには有意差を認めなかった.自然呼吸群と比較して,呼気延長群と同比率群では運動中のV(dot)EとV(dot)E/V(dot)CO2は有意に低値を示したが,運動後の各指標は3群間に有意差を認めなかった.運動中のSBPは,呼気延長群で200%AT強度まで,同比率群で120%AT強度まで有意に低値を示した.運動中のHFは,呼気延長群でAT強度まで,同比率群で80%AT強度まで有意に高値を示した.運動後のHFは3群間に有意差を認めなかったが,HRRは呼気延長群で有意に高値を示し,同比率群では有意差を認めなかった.HRは運動中と運動後ともに3群間に有意差を認めなかった.
【結語】呼気延長呼吸は,運動中の換気効率を改善し,AT強度に至る運動の副交感神経活動を賦活化して,さらに高強度運動でも過剰な血圧上昇を抑制し,運動後の心拍数を速やかに回復した.以上から,高齢者や重症な低心機能患者に対しても,運動中に呼気延長呼吸を導入することによって自然呼吸の運動より安全で効率的な運動が行えると考えられた.