抄録
【目的】長期臥床を強いられると圧受容器反射が減弱し、起立耐性が低下する。この起立耐性低下に対して我々が行う対応は、抗重力肢位を取って腹腔、下肢への血液移動を促し、圧受容器反射を惹起することである。ギャッジアップ座位は、下肢への血液移動が生じにくいために有用性は低いと考えられているが、ギャッジアップ座位時の循環応答に関する報告は少ない。今回、我々は若年健常者におけるギャッジアップ座位時とHead Up Tilt（以下HUT）時での循環応答を比較し、起立耐性低下に対するギャッジアップ座位の訓練効果を検討した。
【方法】被検者は若年健常男性7名（平均年齢22.6±3.0歳）。負荷はHUT群ではHUT60°、ギャッジアップ座位群（以下G群）ではギャッジ角度60°とし、手動血圧計にて平均血圧（以下MBP）を1分毎に測定し、また、心拍出量計を用いてインピーダンス法にて、1回心拍出量（以下SV）、心拍数（以下HR）、心拍出量（以下CO）の測定を行い、1分間の平均を求めた。プロトコールは15分の安静臥位後、安静臥位3分→HUT 60°（ギャッジアップ座位60°）7分→回復臥位3分とした。各群とも測定データを安静臥位と比較し、両群間での比較も行なった。統計学的評価は、時間毎に分散分析を行い、有意差があったものに関してRyan，s methodにより多重比較を行った。危険率は0.05未満で有意とした。
【結果】MBPは両群とも安静臥位時と変化はなく、両群間での差はなかった。SVは両群とも安静臥位時より有意に低下し、両群間での差はなかった。HRはHUT群では安静臥位時より有意に上昇したが、G群では変化はなかった。両群間の比較ではHUT群が有意に高値となった。COはHUT群では安静臥位時と変化はなく、G群で有意に低下した。
【考察】本研究では、SVは今まで考えた通り、両群で低下した。また、HRはHUT群では上昇したが、G群では変化はなかった。そのためにG群でCOが低下したと考えられた。G群ではHUT群よりも重力による血液移動が少ないため、静脈還流量の低下が少ない。一般的に、静脈還流量が低下し、SVの低下が生じると、圧受容器反射が惹起され、総末梢血管抵抗が上昇し、次いでHRの上昇が起こる。本研究の結果より、G群では静脈還流量の低下が少ないため、心拍応答が惹起されず、総末梢血管抵抗の上昇のみで血圧維持が行われたと考えられる。すなわち、ギャッジアップ座位ではHUTと同様の総末梢血管抵抗とHRを上昇させる程の負荷とはならない可能性があるが、総末梢血管抵抗のみを上昇させる程の負荷になる可能性はあると考えられた。本研究は若年健常者を対象としたが、ギャッジアップ座位は起立耐性低下に対する訓練として有用である可能性が示唆された。また、高齢者など端座位や立位訓練が困難な症例での検討が必要と考える。
