抄録
【目的】
脳卒中片麻痺に対して,上肢の感覚検査として臨床で広く用いられている触覚および位置覚の検査と,深部感覚障害をより鋭敏に測定できると考えられる「指あわせ試験」を施行し,それぞれの検査結果と動作障害の程度との関連性について検討した.
【方法】
対象は,一側上肢に障害を有し,上肢および手指の運動麻痺が比較的軽度な初発の脳卒中片麻痺18名で,男性11名,女性7名,平均年齢67.5±9.5歳であった.麻痺側は右-9名,左-9名,上肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は,5-9名,6-9名,手指のBRSは5-9名,6-9名であった.「指あわせ試験」の手順は以下の通りである.対象者を端座位にて閉眼させ,麻痺側示指先端に半径6cmの円盤を取り付けた状態で,検者が麻痺側上肢を他動的に動かした後,任意の位置に固定し,対象者に非麻痺側示指先端を麻痺側示指先端にあわせるよう指示した.非麻痺側示指先端が円盤にあたる回数によってその障害度を判定し,正常,軽度,中等度,重度の4段階とした.触覚と位置覚の検査はStroke Impairment Assessment Setの方法に従って行った.また,動作障害の程度の検査として簡易上肢機能検査(以下,STEF)を用いた.
【結果】
「指あわせ試験」の結果とそれぞれの群のSTEFの平均点は,正常11名(75.5点),軽度2名(69.5点),中等度3名(73.0点),重度2名(10.5点)であった.位置覚検査では,正常12名(73.0点),軽度3名(76.7点),中等度1名(83.0点),重度2名(10.5点)であった.触覚検査では,正常3名(67.3点),軽度14名(70.7点),重度1名(18点)であった.
【考察】
今回の結果から,「指あわせ試験」,触覚および位置覚検査ともに,その障害が重度な症例では,STEFの合計点数は明らかに低く,軽度,中等度,正常の症例は同程度の点数であった. Taub(1976)はサルの後根を切断して感覚障害を起させても,粗大な動作は可能となることから,動作の遂行に体性感覚は必要ないと結論しているが,これは,今回,軽度あるいは中等度の感覚障害が動作の遂行に影響していなかったことを裏付けるものとも考えられる.
また,触覚は軽度鈍麻で「指あわせ試験」と位置覚は重度鈍麻という感覚の解離を認めた一症例では,STEFの点数が3点と著しく低下していた.先行研究においても,深部感覚障害を有する症例は実用手となり難いことが報告されており,今回の症例もこれに該当すると考えられ,特に表在感覚よりも深部感覚の方が動作に対してより強く影響を及ぼしていることが示唆された.