理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 287
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神経系理学療法
中枢性疼痛に対するアプローチ
情報間の不整合に着目して
生野 達也奥埜 博之信迫 悟志山田 真澄塚本 芳久
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キーワード: 脳卒中, 疼痛, 認知運動療法
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抄録
【はじめに】
脳卒中において、末梢侵害受容器からの入力がなくても、あたかも受容器が強く刺激されたかのように生じる疼痛を脳卒中後中枢性疼痛と呼んでおり、ADL阻害因子になることが多い。現在、治療としては、決め手となるものはない。Harrisは中枢性の疼痛の要因を、中枢神経にもたらされる多くの情報間の不整合とする仮説を提唱した。そこで今回、脳卒中後に中枢性疼痛と思われるしびれや痛みを呈した2症例に対し、情報間の不整合という視点にたって病態解釈を行い、仮説-検証作業を行ったので報告する。
【症例紹介】
〔症例1〕70歳代(女性) 診断名:脳梗塞(H19.7.30発症) 障害名:右片麻痺、失語症。右下肢Br.stage:5。右立脚期において右足底部に疼痛を認め(VAS:10)、自室内つたい歩き自立レベル。右下肢に軽度の筋緊張亢進を認め、位置覚は軽度鈍麻。右足底部に対する触圧覚を疼痛として認識する。認識した結果を言語記述して整理するのが困難であった。〔症例2〕40歳代(女性) 診断名:左大腿骨頚部骨折(H19.8.14受傷、H19.8.17骨接合術施行) 既往歴:クモ膜下出血 障害名:起立歩行障害、左片麻痺。左下肢Br.stage:3。骨折前より左短下肢装具を装着し、四点杖歩行近位監視レベル。左立脚期において下腿三頭筋の筋緊張亢進と左足底部にしびれ・疼痛を訴えた(VAS:10)。左足部位置覚・触圧覚重度鈍麻、左足底部に対する触圧覚をしびれ・疼痛として認識する。左半身に対する注意が向きにくく、認識した結果を記憶できない。
【仮説・訓練】
症例1・2は、知覚や注意、記憶、言語機能は異なるものの、歩行時に必要な視覚と体性感覚との情報間に不整合が生じ、足底部のしびれ・疼痛と異常な筋緊張の出現につながっていると考えた。訓練は、足底部で硬度の異なるスポンジの反力を触圧覚で認識する課題を実施した。次に、足底部の触圧覚情報と位置覚に基づく下肢の空間的位置関係の情報とを関係付ける課題を行った。このとき、症例1では、図や文字を使用して、足底の触圧覚情報と下肢の位置情報との関係を教示した。症例2では、触圧覚情報を「布団」などの過去の記憶と結び付けて、記憶を保持させた。
【結果】
足底部における触圧覚の認識および下肢の空間情報との関係の認識が可能になると共に、歩行時における足底部の疼痛や異常な筋緊張が軽減した。〔症例1〕介入3ヶ月。屋内歩行自立レベル(VAS:4)。〔症例2〕介入1ヶ月。左短下肢装具を装着し、四点杖歩行近位監視レベル(VAS:0)。
【考察】今回、訓練を通じて、情報間の整合性がつけられるようになると共に、疼痛の軽減と異常な筋緊張の改善を認めた。訓練においては、症例によって情報の不整合がどのように起こっているかを明らかにした上で、情報間に整合性がつけられるよう症例を適切に導いていくことが重要と考えた。
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© 2008 日本理学療法士協会
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