抄録
【目的】脳卒中患者の麻痺肢に対するさまざまな神経筋再教育法の効果検証において,股・膝関節に比較して足関節背屈機能は改善しにくいことが多いため, 足関節重度麻痺に焦点をあてた治療法が求められている.近年注目されているミラーセラピーは,装置が安価で重度麻痺にも適用可能であることから臨床的に活用しやすい. 我々は, このミラーセラピーを麻痺側足関節背屈機能訓練として導入し通常訓練と比較検討したので報告する.
【方法】対象は当院入院4週後にStroke Impairment Assessment Setの足関節運動機能(以下,SIAS-F)が2点以下で指示理解良好な初発脳卒中片麻痺患者30名とした. 内訳は通常訓練に加えミラーセラピーを実施したミラー群が14名,ミラーセラピーはおこなわず通常訓練のみ実施した対照群が16名であった. 対象者には十分な説明と同意を得ておこなった. ミラーセラピーは両膝関節60°屈曲位の椅子座位で行った. 下腿部を露出させ鏡を両下肢間に非麻痺側下肢が映るように設置した.患者には鏡に映る非麻痺側下肢を注視させながら非麻痺側の背屈運動を行わせた.この時,鏡に隠れている麻痺側も同時に背屈努力するよう指示した.背屈運動の回数は2秒に1回のペースで1日に200回を計7日間,合計1400回行った.1日目のミラーセラピー開始直前(以下, 開始時)と7日目のミラーセラピー試行直後(以下, 終了時)および終了時から7日後(以下, 最終時)の計3回, SIAS-Fとビデオ撮影による足関節背屈角度を評価した.ビデオは両膝関節60°屈曲位の椅子座位で麻痺側外果中央の90cm側方から撮影し, 最大背屈時の床面と足底面のなす角度を測定し, 3試行の中央値を採用した.終了時から最終時までの1週間はミラーセラピーをおこなわず通常訓練のみとした. 対照群の評価はミラー群と同じタイミングで行った.ミラー群と対照群との比較にはノンパラメトリック統計を使用した.
【結果】SIAS-Fについて, 開始時, 終了時, 最終時で両群間に有意差はなかったが, ミラー群は14名中8名(57.1%)に改善が認められ, 開始時と終了時,開始時と最終時との間において有意な改善を認めた. 対照群は16名中3名(15.8%)の改善で, 開始時, 終了時, 最終時の間で有意差はなかった. 背屈角度について,ミラー群の平均角度は,開始時2.2±4.1°,終了時8.3±2.3°,最終時10.0±2.6°,対照群の平均角度は, 開始時1.1±3.1°,終了時3.1±6.1°,最終時2.6±5.7°であり, 最終時でミラー群は対照群よりも有意な改善を示した(p<0.05).
【考察】本研究では通常訓練に加えてミラーセラピーを行ったため, その効果要因は麻痺肢が動いているという視覚入力(運動の視覚的錯覚)だけでなく, 実際に背屈訓練量が増したことによる効果の2つの面が考えられる.今後は背屈訓練量を同一条件にした効果判定も行い, ミラーセラピーを重度足関節麻痺の背屈促通訓練の1つとして確立させていきたい.