抄録
【はじめに】
Modified Step test(以下MST)は一定時間内に一定の高さの段上へ前方および側方へ片脚を上げ下ろしできる最大の回数を測定する評価法であり,立位でのパフォーマンステストとして有用であるとされる。しかし,MSTを用いた報告は散見されるがまだまだ少なく,検討する余地がある。そこで今回我々はMSTが動的バランス能力の指標として有用なものかどうかについて,移動能力に関係する身体機能を表す指標との関連性から検討した。
【対象】
対象は脳卒中片麻痺患者とし,立位保持が自力で可能なものとした。各課題の実施を妨げる高度な認知症や高次脳機能障害のあるものは対象から除外した。また今回の測定の趣旨について十分な説明を行い同意が得られたものとした。その結果,対象者は32名(男性20名,女性12名,右片麻痺12名,左片麻痺20名,平均年齢68.2±13.3歳,発症からの平均日数127.8±87.7日)であった。
【方法】
MSTはHillら,橋立らが提唱した方法を一部改変して実施した。課題は,静止立位をとった対象者の足部から前方・側方へ5cm離したところへ,10cm・15cmの台を置き15秒間で何回ステップできたかを計測した。対象者には最大限速くステップすること,足底を台と床に完全に接地するよう指示をした。計測中,介助してしまった場合にはそこで課題を終了とし,そこまでの値を記録した。またMSTと移動能力に関係する身体機能を表す指標(Functional Independence Measureの歩行能力項目(以下FIM),Timed UP and Go Test(以下TUG),10m歩行速度,歩幅)について計測した。MSTの各条件,身体機能指標との関連性をPearsonの相関係数を用いて検討した。危険率5%未満を有意とした。
【結果・考察】
10cm台・15cm台への前方ステップはそれぞれ非麻痺側11.0±4.2回・10.3±3.8回,麻痺側7.9±3.4回・7.2±3.6回であり,側方ステップは非麻痺側10.9±4.2回・10.1±3.9回,麻痺側7.5±3.5回・6.9±3.4回であった。10cm台においてMSTとFIM,TUG,10m歩行速度,歩幅間に有意な相関関係(FIM:r=0.43~0.55,TUG:r=-0.63~-0.46,10m歩行速度:r=-0.55~-0.38,歩幅:r=0.37~0.66,p<0.05)が認められた。このことから側方を含めたMSTが動的バランステストの指標として有効であることが示唆されたと考える。また前方ステップと側方ステップの間の関連,10cm台と15cm台の関連についてはともに有意な相関(p<0.01)を得たことから,前方ステップより側方の重心制御能力の推測が可能であると考えられること,10cmの台にて前方ステップ評価を行うことでより簡便な動的バランス評価が可能であることが示唆された。MSTは臨床におけるステップ練習の有効性を検討する一助となり得ると考えられる。