理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 718
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神経系理学療法
脳卒中患者に対する下肢運動観察治療の可能性
pilot study
池岡 舞松尾 篤七野 さやか福井 祥二北裏 真己栢瀬 大輔松本 直子手塚 康貴
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抄録
【はじめに】近年,脳卒中後の運動障害に対する治療介入として,神経リハビリテ−ションとmirror neuron systemの関係性が報告されている。Elteltら(2007)は,慢性期脳卒中患者において,運動観察治療での有意な上肢機能の改善を報告した。運動観察治療とは,日常行動の観察と同時に観察した行動の身体練習を組み合わせた治療のことである。本邦では,運動観察治療の臨床的研究は散見される程度であり,さらに,上肢機能に注目した研究がほとんどで,下肢の機能的パフォーマンスに焦点を絞った研究も見当たらない。よって,本研究では亜急性期脳卒中患者に対し運動観察治療を実施し,下肢運動課題の実行時間の経時的変化を比較・検討したので報告する。
【方法】研究参加に同意した当院入院中の脳卒中片麻痺患者3名(男性2名,女性1名,平均年齢68.7±15.0歳,平均発症経過日数42.7±22.7日)を対象とした。参加者は,通常の理学療法に加えて運動観察治療を受けた。運動観察治療は,健常者の課題実施場面を撮影したVTRを作成し,身体練習の前にその映像を観察し,その直後に同課題を最低2回以上練習することとした。観察課題は,杖またぎ,段差ステップ,180度方向変換の3課題とし,観察時間は各課題で6分間,合計18分間に設定し,介入期間は週5回,2週間とした。評価時期は介入1週間前,介入直前,介入後の3回で,各課題の実行時間を計測した。介入1週間前と介入直前の結果の平均値を介入前とし,介入後との課題実行時間を比較した。また副次的評価としてFunctional Reach (以下FR),Timed Up and Go test (以下TUG),Four Square Step Test(以下FSST),step testについても同様に比較を行った。
【結果】3課題すべてにおいて,3症例ともに介入前後で課題実行時間の短縮が見られ,特に段差ステップでは平均実行時間が16.00秒から7.28秒に短縮した。また全ての副次的評価において改善傾向を示し,特にFR,step testでは著明な改善を認めた(FR:+2.5cm,step test:+4回)。
【考察】全症例において,運動観察課題の実行時間が短縮し,さらには下肢・立位に関する機能的パフォーマンステストにおいても改善傾向を示した。本研究は,下肢における運動観察治療の可能性を検討した数少ない報告であり,立位や歩行を使用した課題指向性活動の意図的観察が治療応用できることが推察された。運動観察のリハビリテ−ション治療への応用は,mirror neuron systemに関する幾つかの脳イメージング研究の結果からも期待されている(Buccino, 2006)。意図的な運動観察と,反復した身体練習との最適な組み合わせが,より効率的な運動学習を導く可能性がある(Page, 2007)。今後さらに運動観察治療の有用性を検証していくために,詳細な治療プロトコールの設定,サンプルサイズの増大を図り,コントロール研究を実施していく必要がある。

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© 2008 日本理学療法士協会
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