抄録
【目的】
福岡県理学療法士会では,2001年5月に7部会により構成される専門領域研究部会が発足している.その中の神経系理学療法研究部会では翌2002年より,成人片麻痺班・小児班・神経難病班の三班に分かれてより専門性の高い活動を現在まで継続している.特に神経難病班(以下,当班)では,神経難病疾患の評価について研究に取り組み,「パーキンソン病簡易評価スケール」を作成し,2004年の福岡県理学療法士学会,2007年の日本理学療法学術大会において報告している.これまでの活動を通して,神経難病疾患には疾患特有の評価指標があるが,理学療法士(以下,PT)はそれらを使用している事が少なく,また知らない事も多いという現状を知った.
そこで,当班では県士会会員(以下,会員)への評価指標の紹介を目的に神経難病評価集(以下,評価集)を作成したので,その取り組みを報告する.
【概要】
活動は年に5~6回,各疾患の評価指標を文献的考察及び実際に評価するなどの勉強会を開催した.その後,会員に対して協力を依頼し,評価指標を実際に使用してもらった.実際に評価指標を活用したPTからの使用感などをアンケート調査し,評価集作成の資料とした.対象疾患は一般病院でも比較的に診る機会があるパーキンソン病・脊髄小脳変性症・筋萎縮性側索硬化症・多発性硬化症の四疾患とし,評価指標は,「UPDRS」「簡易版UPDRS」「ICARS」「ALSFRS」「Norris scale」「EDSS」を評価集に収録することにした.
【結果】
当班の依頼に協力の得られた延べ8施設,32名のPTが127名の患者に対して,評価指標を使用した.実際に評価指標を使用したPT32名のアンケート調査の結果には,各評価指標の利点や欠点など,さまざま回答が寄せられた.例えば,「PTとして把握して置きたいわずかに残されたコミュニケーション能力(手段)がスコアとして現れない」など,実際に活用したPTの意見も得ることができ,評価集の使用感の項に反映させることができた.また,当班がこれまで福岡県理学療法士会専門領域研究集会および学会報告した内容も含めて評価集を作成することができた.
【考察】
疾患の重症度を計る評価指標は,医療従事者間共通の指標を持つ上で重要である.またPTにおいては,尺度の明瞭度やリハビリテーションに必要な情報が得られるのかなどが,評価指標に求められる.今回作成した評価集では,単に評価指標の紹介だけでなく,PTとして使用した場合の利便性,問題点などの使用感も合わせて紹介することにより,PTが活用しやすい評価集となったと考える.今回作成した評価集が,会員の臨床活動の一助になれば幸いである.
本評価集の作成にあたり,忙しい職務にも関わらず評価指標のモニター調査にご協力いただいたPTの方々に深く感謝いたします.