理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1611
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者における麻痺側荷重率の麻痺側による差異
富田 学長野 友彦江西 一成渡邉 哲郎井手 睦
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抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者において安定した立位保持は重要である.昨今,脳卒中片麻痺患者における立位姿勢での荷重量やリーチ動作についての報告はなされているが麻痺側別の検討は少ない.今回脳卒中片麻痺患者を対象とし,様々な肢位でのリーチを行なった時の下肢荷重量を計測し,その麻痺側の違いによる差異について検討した.

【対象と方法】対象は全例右利きの健常者12名,脳卒中片麻痺患者14名(左片麻痺6名,右片麻痺8名)とした.計測機器にはアニマ社製グラビコーダー(TWIN GRAVICORDER G6100)のforce plateを用い,下肢荷重量を計測した.下肢荷重量は2枚のforce plate上に左右それぞれの下肢を相当させ,前後開脚・両脚揃え肢位にて非麻痺側上肢での前方リーチ動作を行った時の値を測定した.リーチ形態は両脚揃えたリーチ,麻痺側下肢を後ろにした前後開脚リーチ,麻痺側下肢を前にした前後開脚リーチの3動作とした.計測時間は3秒(サンプリングタイム1/100秒)とし、その平均Z成分の体重比を荷重率とした.検討項目として1.健常群と片麻痺群間の荷重率の比較,2.右片麻痺群と左片麻痺群間の荷重率の比較を行なった.なお,麻痺側前型リーチにおいて右片麻痺群と左片麻痺群間の特徴を明確にするため3.麻痺側荷重率-非麻痺側間重率の値の比較を行なった.統計処理にはt-検定を用い,有意水準を95%とした.

【結果】健常群では前方下肢への荷重率が高くなり(左下肢前66.5±6.0%,右下肢前65.4±7.4%),右片麻痺群においても同様に前方下肢への荷重率が高かった(左下肢前66.5±13.3%,右下肢前62.4±8.6%).しかし,左片麻痺群の麻痺側前型リーチにおいて異なる傾向にあり,右下肢(53.5±14.3%)が左下肢(46.4±14.3%)より荷重率が高い傾向にあった.その麻痺側前型リーチでの麻痺側荷重率-非麻痺側荷重率の値においては右片麻痺群(24.8±17.3%)が左片麻痺群(-7.0±28.7%)よりも有意に高い値であった(p<0.05).

【考察】下肢において左右での役割分担,すなわち左足は安定保持と方向性,右足はスピードのコントロールと全身の器用性を担うことが報告されている.片麻痺患者において,発病前の数十年間,前述した機能の下に生活を送ってきたことが想像でき,左片麻痺患者は安定保持を果たすべき下肢を右下肢へと変更することが余儀なくされており,安定性において不利な状況であることも報告されている.今回,平均罹病期間(7.1±5.6ヶ月)が長く歩行が習熟している左片麻痺において安定保持を果たすべき下肢を右下肢へ変更した結果,非麻痺側機能が有意に働いたことが考えられた.これらのことが左片麻痺群の麻痺側荷重率が低い傾向を示した要因であると考えられた.左片麻痺と右片麻痺とでは荷重特性が異なるということを念頭に,麻痺側に応じた適切な理学療法を進めていくことが重要であると考えられた.
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© 2008 日本理学療法士協会
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