抄録
【目的】腱板損傷に代表される肩関節機能障害に対する理学療法として,一般的にインナーマッスルに対する筋力トレーニングが用いられている.その際,肩関節の運動には肩甲上腕関節のみならず肩甲骨が関与することから肩甲骨周囲筋を含めたトレーニングが必要となる.今回インナーマッスルに加え,肩甲骨周囲筋に対し個別トレーニングと同時収縮トレーニングを行い,その効果について比較検討した.
【方法】対象は肩関節に異常のない健常男性15名(平均年齢27.1±6.4歳)15肩とした.方法は対象の15名にトレーニング開始前筋力評価として,Cybexにて角速度60°/secでの肩関節外転,1st外旋,1st内旋,2nd外旋,2nd内旋のピークトルク(Nm)を測定した.その結果より年齢と測定項目に有意差が生じないよう,対象を5名ずつのインナーマッスルトレーニング群(以下A群),インナーマッスルと肩甲骨周囲筋個別トレーニング群(以下B群),インナーマッスルと肩甲骨周囲筋同時収縮トレーニング群(以下C群)の3群に分けた.トレーニング方法は,A群はセラバンドによるインナーマッスルトレーニングを,B群はインナーマッスルと鉄亜鈴3kgによる肩甲骨周囲筋個別トレーニングを,C群はインナーマッスルとセラバンドによる弓引き動作を,各群とも1日に各20回3セットを週5日の頻度で4週間行った.筋力測定は,開始前と2週後,4週後に行い,各群のトレーニング効果を比較検討した.統計解析は,二元配置分散分析及び事後多重比較(テューキーのHSD検定)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】1. トレーニング方法による比較.2nd内旋において,A群:31.4→32.0→34.6,B群:32.4→35.2→36.8,C群:35.4→43.4→41.0であり,群間に有意差が認められ(p=0.032),事後多重比較によりA群に比較しC群に有意な筋力増加が認められた(p=0.030).外転,1st外旋,1st内旋,2nd外旋に有意差は認められなかった. 2. トレーニング経過に伴う比較.2nd内旋において,開始前33.0→2週後36.8→4週後37.4であり,経時的に有意差が認められ(p=0.008),事後多重比較によりC群での開始前と2週後に有意差が認められた(p=0.014).外転,1st外旋,1st内旋,2nd外旋に有意差は認められなかった.
【考察】弓引き動作は,肩関節90°外転位にて肩甲上腕関節の水平伸展を伴う運動であり,その際前鋸筋や僧帽筋,菱形筋の肩甲骨周囲筋を同時に収縮させ肩甲骨の固定を促すことが可能である.今回,弓引き動作を施行した群に2nd内旋の有意な筋力増強が認められた.その理由として,2nd内旋時の肩甲骨の動きには前傾と外転が生じ,その際肩甲骨内側縁と下角には胸郭からの浮き上がりが生じるが,弓引き動作により肩甲骨の胸郭と脊柱への固定作用が促進されたことで2nd内旋筋の筋効率が高まり,筋力増加につながったと考えられる.よって,弓引き動作は肩甲骨の固定性を高め,肩甲上腕関節における筋効率を発揮するための有用なトレーニング方法の一つであると考える.