抄録
【目的】
筋膜皮膚・筋膜の運動学的特性はあまり報告がないが股関節屈曲時の鼠径部圧縮で皮膚・浅層筋膜が運動制限になることを頻繁に経験する。本来皮膚は関節運動時にどちらに動くのであろうか。その検証のため皮膚上マーカを上肢に添付し股関節運動を行わせ、その皮膚・筋膜の運動特性を確かめた。
【方法】
対象は実験に同意頂いた健常成人5名(年齢31.2±4.89歳,身長166.6±3.85cm,体重60.0±6.60kg)である。計測肢位は仰臥位で全員右下肢で計測した。マーカは胸骨柄上部、胸骨剣状突起、両上前腸骨棘、膝蓋骨上[F4]、右上前腸骨棘と膝蓋骨上を結ぶ直線を1/4[F1],2/4[F2],3/4[F3]に内分する点および坐骨結節上[B1],膝窩線を結ぶ直線を1/4[B2],2/4[B3],3/4[B4]に内分する点および大転子、大腿骨外側上顆部とした(マーカ直径9.5mm)。右股関節屈伸運動を3次元動作解析装置VICON MX(Mカメラ8台,計測周波数120Hz)を用いて計測し、皮膚運動と股関節屈曲伸展運動の関係を計測した。なお運動時には下肢運動をなるべく矢状面に限定するように足関節部にスリングを装着して内外転運動を制限し、股関節屈曲に膝関節屈曲運動が伴うようにした。大転子、大腿骨外側上顆部の矢状面投影点がベッド水平面となす角度を股関節屈曲角度とし、大腿前面と後面の対応するマーカ同士(F1-B1,F2-B2,F3-B3,F4-B4)が大腿長軸となす角度を矢状面に投影した角(Angle1:F1-B1,Angle2:F2-B2, Angle3:F3-B3, Angle4:F4-B4)を計測パラメータとした。
【結果】
Angle1~4の平均角度はそれぞれ座位で12.9±5.85°,2.0±2.20°,1.4±1.51°,7.0±1.62°となった。股関節屈曲角度とAngle1~4の時系列相関係数はいずれも有意であり(P<0.001)、Angle1の相関係数はいずれも0.99以上であった。本結果より大腿前面皮膚は屈曲時に末梢側(膝方向)に、伸展時に中枢側(股方向)へ移動した。後面皮膚は屈曲時に中枢側(股方向)に、伸展時に末梢側(膝方向)へ移動した。
【考察】
昨年、本学会にて肩関節部皮膚の運動時の挙動特性について検討したが、同様の結果が股関節でも認められた。肩関節屈曲時、股関節屈曲時ともに皮膚同士が近づこうとする前面では皮膚が遠位方向に移動した。逆に離れようとする後面では近位に移動してあたかも運動時に不足している部分を補っているように動くことが全被験者で認められた。屈曲時の鼠径部の皺が形成する制限は屈筋活動を大きくすることからも、皮膚運動は筋・関節運動に影響することが考えられる。
【まとめ】
大腿前面皮膚は屈曲時に膝方向に、伸展時に股方向へ移動し後面皮膚はその逆方向へ移動した。