抄録
【はじめに】人工呼吸管理を要する高位頸髄損傷患者は誤嚥やエアリークの危険性を理由とし、カフ付カニューレ(以下カフ付)が使用され発声不能な場合が多い。今回我々は、カフなしカニューレ(以下カフなし)による人工呼吸管理および呼吸器離脱訓練を実施し、発声能力を獲得し呼吸器より部分離脱が可能となった高位頸髄損傷の1例を経験したので報告する。
【症例】8歳男児。2006年4月交通事故にて受傷。初診時、C1頸髄損傷(Frankel A)による完全四肢麻痺および呼吸筋麻痺。当院救命センター搬入時、自発呼吸消失のため人工呼吸管理が施行された。MRI所見はC1/2の亜脱臼を認め、C1レベルの脊髄に出血、浮腫を認めた。
【発声能力獲得の経過】受傷後12日目に気管切開術が施行され、カフ付が使用された。82日目にカフなしへ変更し、エアリークにより発声可能となった。エアリークによる換気量低下に対しては1回換気量を増加させカニューレ内径サイズを調節し対応した。また、カフなしへ変更後は気道内分泌物、気管内吸引数は減少した。
【部分離脱の経過】受傷後88日目に自発呼吸が出現した。呼吸機能検査ではVC110mlであった。136日目に呼吸器離脱試験を行ったが、離脱時間2分(VC150ml)であった。その後on‐off方式での呼吸器離脱訓練を開始し、178日目に10分間離脱(VC170ml)、282日目に2時間離脱(VC230ml)、505日目に8時間離脱(VC350ml)となった。
【離脱時の呼吸様式】吸気は呼吸補助筋による上部胸郭の引き上げ、呼気は胸郭の弾性にて換気が行われていた。表面筋電図検査では、吸気時に胸鎖乳突筋、僧帽筋上部の筋電活動を認めたが、大胸筋、肋間筋には認めなかった。X線ビデオ透視検査では、横隔膜の収縮は認めなかった。また、仰臥位と45°座位での呼吸機能検査では、VCは、臥位246.3±28.4ml、座位321.9±37.6ml、呼吸数は、臥位51.5±5.9回/分、座位40.5±5.2回/分であった。
【考察】人工呼吸器依存頸髄損傷患者と家族にとって、発声能力獲得は著しいQOL改善をもたらす。気道内分泌物増加は副交感神経優位によるだけではなく、カフによる気管への刺激の影響も考えられる。本症例は、発声可能になった時期に自発呼吸が出現し、発声が自発呼吸を促す要因になったと思われる。また、横隔膜麻痺の回復は認めていないにもかかわらず、呼吸器より部分離脱が可能となり、横隔膜麻痺を伴う高位頸髄損傷に対しての呼吸器離脱訓練は有効であったといえる。今回、呼吸器離脱時は仰臥位より45°座位の方が換気効率は高いことが確認され、今後、より有効な換気方法を研究していく必要がある。笠井ら(2002)は、事故対策として自力呼吸能力の確保に努めるべきであると報告している。現在、本症例は2008年4月に在宅生活、地元小学校復学予定に至り、発声能力獲得および呼吸器より部分離脱が安全性を高め、家庭復帰、復学を促す大きな要因になったと考える。