抄録
【目的】非接触型の膝前十字靭帯(ACL)損傷の受傷要因の一つとして,片脚ジャンプ着地時の膝関節外反があげられる.荷重位で大腿に対して下腿が外旋すると,それに伴っていわゆるknee inが誘導されることは数多く報告されている.knee inという現象は膝関節外反を含むことから,下腿外旋は膝関節外反を導くと考えられる.本研究は,膝関節外反の大きい人は,下腿外旋に作用する外側ハムストリングの筋活動が内側ハムストリングに比べ大きいと仮説を立て,片脚ジャンプ着地時の膝関節外反とハムストリング筋活動の関係を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は下肢に整形外科疾患のない健康な女子大学生27名(年齢20.5±1.5歳,身長157.9±3.9cm,体重51.8±5.3kg)とした.ジャンプ動作は,両脚での垂直ジャンプを最大努力下にて行い,左脚で着地した.この時の,内側広筋(VM),外側広筋(VL),半膜様筋(SM),大腿二頭筋(BF)の筋活動をPersonal-EMG(追坂電子機器社)を用いて測定した.各筋の活動量は最大等尺性収縮時のRMSを100%として相対化した.筋活動の測定区間は,足尖接地から0.2秒間とした.同時に,ジャンプ動作をデジタルビデオカメラ4台で同期して撮影し,三次元動作解析ソフトにより膝関節外反角度を算出した.求めた膝関節外反角度と筋活動比との相関を統計学的に分析した.危険率5%未満を有意とした.なお本研究はH大学大学院保健学研究科の倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】足尖接地から0.2秒間の内側,外側ハムストリングの筋活動比(BF/SM比)は1.7±0.8,内側,外側広筋の筋活動比(VL/VM比)は0.9±0.3であった.膝関節最大外反角度は9.5±5.1°であった.BF/SM比と膝関節最大外反角度に有意な相関がみられた(r=0.40,p<0.05).しかし,VL/VM比と膝関節最大外反角度に有意な相関はみられなかった(r=-0.12).
【考察】本研究により,足尖接地から0.2秒間の筋活動において,内側ハムストリングに比べて外側ハムストリングの筋活動が大きいことが膝関節外反角度を増大させている可能性が示唆された.このことから,着地時の外側ハムストリングの大きな筋活動により過剰な下腿外旋が起こり,膝関節外反に作用することが考えられる.しかし,逆に膝関節外反角度が大きいことが,外側ハムストリングの筋活動を増大させたとも考えられ,股関節内旋による膝関節外反を抑制するために外側ハムストリングの筋活動が大きくなったとも考えられる.そのため,従来からACL損傷予防の観点で,ハムストリングの重要性が唱えられてきたが,本研究の結果よりハムストリング筋力強化にはより詳細な検討が必要であると考える.
【まとめ】片脚ジャンプ着地時の外側,内側ハムストリングの筋活動比と膝関節外反角度には有意な相関がみられた.内側,外側広筋の筋活動比と膝関節外反角度には有意な相関はみられなかった.