主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】近年,医療機関の機能分化や急性期から回復期,そして,在宅へと統一した医療を行うために,地域連携パス(以下,連携パス)が導入され始めている。当院においても,平成19年2月より,大腿骨頚部骨折に対する急性期と回復期を担う病院間での連携パスを作成し,当院1施設を計画管理病院とし4つの連携病院の間で,地域完結型医療を目標に試験的に運用を開始している。そこで今回,試験運用中に生じた当院における地域連携パスの問題点について報告する。
【調査内容・方法】対象は,平成19年2月から8月までに大腿骨頚部骨折を受傷され,当院で手術を行った30名(平均年齢:81.6歳,女性:22名,男性:8名)とした。方法は,カルテおよび地域連携パスより,術後転帰,転院先,連携パス使用の有無,合併症,対象者の居住地を調査した。
【結果】今回の調査における連携パス使用数は,30名中5名(16.7%)であった。連携パス使用者5名中4名は最終的に連携病院より自宅退院となったが、1名は受傷前歩行レベルを獲得したにもかかわらず,御本人と御家族との退院調整がうまくいかず再転院となった。残りの症例中、血液透析を実施していた症例は7名,当院の医療圏外からの入院が5名あり,いずれの症例も連携先以外への転院となった。
【考察】当院における使用率の低さは,鹿児島の急性期病院が離島を含め,広い地域をカバーするといった地域の特異性や当院が血液透析可能な施設であるという施設の特異性も影響していると思われる。また高齢化社会と核家族化に伴い,独居老人や老老介護と呼ばれる状況が見受けられる。本症例を通して,急性期病院として手術前後の心理的・社会的サポートが,患者様の転帰先に大きな影響を及ぼすことを痛感する結果となった。
【まとめ】大腿骨頚部骨折を受傷された患者様に,地域連携パスを試験的に運用し,自宅復帰を目的に理学療法を行った。身体的要因よりも社会的要因により自宅復帰が困難となり,地域連携パスの目的を果たすことが出来なかった症例もあった。このことを解決するために,今後はより早い段階より多職種による係わりが必要と考えられた。