抄録
【目的】
平成18年度に長野県理学療法士会における高校野球メディカルチェック事業(以下、メディカルチェック)を行った。今回投手における投球側前腕回内に着目し、回内可動域と投球側体幹回旋可動域との関連性について検討し、若干の知見を得たので報告する。
【方法】
メディカルチェックに参加した投手118名のうち欠損データのない117名(1年生47名・2年生70名、右投げ96名、左投げ21名:投手歴平均4年、野球歴平均7.4年)を対象とした。対象から投球側前腕回内可動域と投球側体幹回旋可動域を抽出した。
投球側前腕回内可動域と投球側体幹回旋可動域との関連性および、非投球側前腕回内可動域と非投球側体幹回旋可動域との関連性をピアソンの積率相関係数を用いて検討した。
【結果】
投球側前腕回内可動域と投球側体幹回旋可動域においてごく弱い正の相関が得られた(p=0.01 r=0.20)。また非投球側前腕回内可動域と非投球側体幹回旋可動域においては相関関係を認めなかった。
【考察】
今回、投球側前腕回内可動域と投球側体幹回旋可動域においてごく弱い相関関係を認め、かつ非投球側前腕回内可動域と非投球側体幹回旋可動域において相関関係がみられなかったことから単純に個体の身体柔軟性を反映しているとは考え難く、投球動作の一特性もしくは前腕回内と体幹回旋の連鎖的な運動が生じている可能性がある。
今回は体幹までの連鎖および補償要素まで言及できないが、投球側回内可動域が増大すれば肩甲骨後傾が生じ、それに伴い連鎖的に胸椎が伸展し、投球側回旋という運動エネルギー蓄積をしやすくした結果生じたと考えられる。逆に投球側前腕回内可動域が減少すればそれを補償するため肩内旋、伸展を増大させ、肩甲骨を前傾させ、連鎖的に胸椎屈曲を生じ投球側への回旋を生じにくくしていることが考えられる。しかし、ごく弱い相関であったため、前腕回内可動域増大によってのみ非投球側体幹回旋可動域が増大するとは考えにくく、今後前腕回内可動域と肩甲骨位置変化の関連や、治療介入前後での比較検討が必要であると考えられた。