抄録
【目的】
寛骨は仙骨に対し、荷重側において後方回旋、遊脚側において前方回旋し(Sturesson 2000, Hungerford 2004)、歩行中はこの骨盤アライメントの左右反転が起こる(Greenman 1997)。骨盤非対称アライメントの固定化は荷重伝達機能障害を起こし(Snijders 2003, Vleeming 1989)、仙腸関節痛などの原因となる(Hungerford 2004)。しかしながら、骨盤の非対称アライメントに関して簡便な臨床評価法は確立されていない。本研究では、蒲田の考案した骨盤非対称アライメント評価法について、検者間、検者内、検者・被検者間再現性を検証することを目的とした。
【方法】
対象の取込基準は腰部・骨盤帯に疾患を有さない20歳以上の男女10名とした。除外基準は、腰部・骨盤帯での既往歴および現在痛み等の問題を有する者、腰椎・骨盤疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)、急性の神経根圧迫の症状、妊娠中またはその可能性を有する者、および出産後1年以内の者とした。
評価項目は、荷重伝達障害の評価として片足立位、片足スクワット、Active SLRテスト、大腿骨頭前方偏位の評価として安静背臥位での大転子の高さ、大転子の前方移動、股関節屈曲可動域、骨盤非対称アライメントの評価として背臥位の両ASISの位置、立位の両ASISの位置、臥位・骨盤のローリング(自動、他動)、殿裂の傾きとした。検者は整形外科疾患を対象とする臨床経験を5年以上有する理学療法士2名とした。各検者は上記の検査を異なる日に計2回実施するとともに、被検者の主観的評価も同時に行った。情報の共有を防ぐために2名の検者間、および検者と被検者による主観的評価結果についてマスキングを行った。検者内、検者間、および検者・被検者主観的評価間の一致性についてMcNemar検定を用いた。有意水準はp<0.05とした。
【結果】
大転子の高さおよび前方移動において検者内および検者間の評価結果には再現性は見られなかったが、その他の評価項目においては検者内および検者間に再現性が認められた。
【考察】
大転子の前方移動を除く骨盤評価において、検者内、検者間、検者・被検者間に再現性が認められ、これらの評価法の妥当性が証明された。大転子の前方移動については、大転子上のランドマークの統一が困難であることが要因と考えられる。今後、臥位ローリングテストを含む各評価が臨床において有効に活用できるものといえる。