抄録
【目的】リハビリテーションプログラムの1つである体幹トレーニングは、スポーツ選手のみならず高齢者など幅広い年齢層に対して行われている。体幹筋は、呼吸時に補助筋として作用し、運動時に呼吸パターンを考えることは非常に重要である。今回、我々は呼吸が体幹筋に与える影響をより臨床に即した状態で測定したいと考え、第一報として、安静時、運動時の胸式呼吸・腹式呼吸での体幹筋の筋厚変化を計測し、呼吸と体幹筋の関連性を検討することとした。
【対象と方法】対象は、健常男子5名、平均年齢23.4±4.4歳、平均身長170±7cm、平均体重68.2±8.8kgとした。筋厚測定には、4.5MHzの超音波画像診断装置(USB社製SonoAce PICO)を使用した。測定肢位はcrook lyingとし1)随意胸式呼吸と腹式呼吸における安静吸気・安静呼気、最大吸気・最大呼気時の外腹斜筋(以下EO)、内腹斜筋(以下IO)、腹横筋(以下TA)の筋厚変化2)足底を5cm浮かせた時の胸式呼気・腹式呼気・呼吸静止時におけるEO、IO、TAと腹直筋(以下RA)の筋厚変化を測定した。更に、EO、IO、TAの3筋の合計を側腹筋の筋厚として求めた。測定部位は、EO、IO、TAは側腹部(腸骨稜上部)、RAは臍より2cm外側とし、全て同一検者によって測定した。被検者には呼吸のみでの影響を得るため、呼吸パターンの指示、練習のみ行わせ測定を行った。
【結果】安静時、動作時の胸式、腹式呼吸において個体差に有意差は認められたが(P<0.05)、各筋の筋厚において有意差は認められなかった。側腹筋厚の胸式呼吸、腹式呼吸の比較においては、安静吸気において有意差が認められた(P<0.05)。また、安静吸気の内腹斜筋、動作時の腹横筋の筋収縮率において有意差が認められた。
【考察】結果より、呼吸パターンにより体幹筋の筋厚に個体差がみられ、安静吸気での側腹筋、IOの筋収縮率において有意差がみられた。これは、被験者の通常時の呼吸パターンがそれぞれ異なるように、呼吸時に使用される筋のバランスにも違いが生じるからと考える。本研究では、被験者の通常時の呼吸パターンと異なるパターンにおいても呼吸を行わせたため、よりIOが強調して使用されたと考える。胸式呼吸・腹式呼気における動作時のTAの筋収縮率においは、TAが動作時に腹圧を高め、体幹を安定させる作用をもっていること。また、呼気における補助筋でもあり、動作時に呼気を意識的に行うことにより筋の反応を高めることが出来たためと考える。
【まとめ】我々が通常体幹トレーニングとして行っている動作において、呼気動作を伴わせて行うことにより、筋の反応を高めることができ、また腹式呼吸を行うことにより腹部への意識が起こり、より安定性を得ることが可能になると考える。