Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
フィリピン産オガサワラガンゼキ属2新種の記載およびウタヒメセンジュの復権を含むフィリピン産種群の見直し
Roland Houart Christopher Owen Moe陳 充
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2015 年 73 巻 1-2 号 p. 1-14

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抄録
オガサワラガンゼキ属Chicomurex(下に述べるようにタイプ種C. superbusは最近クマドリガンゼキに修正された)は,Chicoreus属の亜属やPhyllonotus属の異名とされることもあったが,歯舌の形態の違いなどから,現在では独立の属と認められている。フィリピンにおける本属の分布記録を整理すると,まずSpringsteen & Leobrera(1986)はChicoreus属としてC. superbus(G. B. Sowerby III, 1889),C. laciniatusC. venustulus Rehder & Wilson, 1975とC. superbus problematicus (Lan, 1982)の4種を図示している。Houart(1992)はC. turschi(Houart, 1981)を加えるとともに,Chicoreus gloriosus Shikama, 1977をC. venustulusの異名とみなしたが,後にHouart(2008)はC. turschiの分布からフィリピンを除外した。さらに,Houart(2013)はC. tagaroaeC. ritaeの2新種を記載し,Houart et al.(2014)はC. problematicusC. superbusの異名であることを示した。従来日本や台湾などの文献でC. superbusとして知られていた種(カザリガンゼキ)はこれとは別種であり,C. lani Houart, Moe & Chen, 2014として新種記載された。
このような状況の下で,本論文においては,さらにフィリピンから従来クマドリガンゼキやウタヒメセンジュなどに混同されていた2種C. globus n. sp.とC. pseudosuperbus n. sp.を新種として記載した。また,C. venustulusはマルキーズ(マルケサス)諸島に固有な種であることを示すとともに,従来その異名とされてきたC. gloriosusは独立した種であり,従来フィリピンからC. venustulusとして報告されていたものはこれに当たることを明らかにした。これにより,フィリピンに分布するオガサワラガンゼキ属は下記の7種となる:C. globus n. sp.,ウタヒメセンジュC. gloriosus,オトヒメガンゼキC. laciniatusC. ritae Houart, 2013,C. pseudosuperbus n. sp.,クマドリガンゼキC. superbus(= C. problematicus),C. tagaroae Houart, 2013。
Chicomurex globus n. sp.オドリコセンジュ(新種・新称)
本種は従来様々な文献で主にウタヒメセンジュ“C. venustulus”(現在のC. gloriosus)に誤同定されてきた。また,久保・黒住(1995)が沖縄からオガサワラガンゼキ“C. superbus”として図示している個体もこの種に当たる。本種は,ウタヒメセンジュに最も近似するが,それよりも小型で,殻幅が広く,水管溝が短い。また,水管溝状の棘が強く背面に反り返ることや,細い褐色帯が肩と殻底に現れることでも区別される。
タイプ産地:フィリピン,ミンダナオ島,ダバオ湾,水深200 m(タングルネット)。
分布:日本(沖縄),南シナ海,フィリピン南部,グアム,パプア・ニューギニア,ヴァヌアツ,ニューカレドニア,水深18~200 m。
Chicomurex pseudosuperbus n. sp.ニセクマドリガンゼキ(新種・新称)
本種も従来“C. venustulus”や“C. superbus”に誤同定されてきた。Springsteen & Leobrera(1986)が“C. superbus”として図示している個体は本種である。本種は,クマドリガンゼキC. superbusからは,殻がより細長く螺塔が高いこと,螺肋が顕著に彩色されないこと,螺肋間の二次肋が弱いことにより区別される。また,ウタヒメセンジュとは,殻がやや大型であること,殻口が狭いこと,色帯の位置がC. globus n. sp.と同様であることなどで異なる。オガサワラガンゼキC. laniにも近似するが,大型であること,縫合が浅いこと,水管溝が長いこと,体層で縦肋が太く,節状になること,表面がざらざらしていることで区別される。なお,オガサワラガンゼキは現在のところフィリピンからは記録されていない。
タイプ産地:フィリピン,セブ,マクタン島沖。
分布:日本(沖縄島残波岬,SCUBA 60 m),台湾,フィリピン,ニューカレドニア,オーストラリア(クイーンズランド),水深60~200 m。
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© 2016 日本貝類学会
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