抄録
【目的】我々は、Groin pain syndrome(以下、GPS)を呈し、治療に難渋したサッカー選手を経験した。今回は、理学療法開始から治療の変遷を経て、病態が改善していく経過を調査し、理学療法プログラムの立案について検討したので報告する。
【症例紹介】症例は、県内強豪高校サッカー部の2年生。身長167cm、体重58kg。蹴り足は主に右足。競技歴8年。ポジションはフォワードであった。
【診断名】右恥骨結合炎
【現病歴】平成19年1月中旬頃から右股関節に痛みを自覚した。近隣の整骨院へ通院していたが症状改善しないため、平成19年2月2日に当院を受診し理学療法開始となった。
【初回評価】主訴:キックやダッシュなどの動作時に鼠径部の痛みが強くなる。ROM:股関節屈曲100/120、伸展0/5、外旋40/40、内旋30/30、外転60/60、内転30/30。下肢MMT: 5/5。触診:恥骨筋、内転筋群に圧痛あり。その他:股関節屈曲位から伸展位への動作や屈曲・内転・内旋動作で鼠径部痛再現。股関節外転・外旋動作で両膝床面接地が不可能。
【経過】初回理学療法は、股関節可動域改善を目的に、股関節周囲筋のマッサージ、ストレッチを中心にプログラム実施。股関節可動域は屈曲で改善したが、動作時痛は増減を繰り返した。同年5月以降、下腹部痛が出現しプレー困難となり、日常生活上の疼痛も訴え、プレー注視を判断した。原因としては、(1)股関節伸展可動域制限や(2)外転・外旋、内転・内旋などの複合的な動作での可動域制限、(3)恥骨筋、内転筋群、内旋筋群の筋緊張が高く、(4)股関節外転・外旋筋力(MMT4/5)の低下が認められた。
【理学療法プログラム変更】股関節伸展可動域の改善に対して恥骨筋の筋緊張低下、股関節外転・外旋筋力の活性化に対して股関節内外旋筋群に抵抗運動や自動運動を行った。さらに、下部体幹・股関節周囲筋の筋緊張低下、股関節外転・外旋筋力の改善に伴い、座位・立位での骨盤前後傾運動、股関節屈曲運動、体幹回旋運動を行った。
【結果】平成19年11月12日の時点では、試合に出場できる状態に改善した。股関節伸展可動域の改善、恥骨筋の筋緊張低下、股関節屈筋・外転・外旋筋力の改善を認めた。ただし、下腹部の違和感は残存しており、恥骨筋、大腿筋膜張筋、腰方形筋、広背筋の筋緊張が強くなっていた。
【考察】治療に難渋する可能性のあるGPS症例は、仁賀が報告している通り股関節可動域の改善と筋力強化が重要であった。また、股関節屈曲筋力や股関節内外旋筋の作用は重要で、骨盤前後傾運動と組み合わせたプログラムと、体幹回旋動作や複合動作の開始時期については今後も検討が必要と考えられた。本症例のように回復が遷延した選手は、違和感の残存や筋緊張低下が得られにくく、長期的なフォローは必要であるが、早期から股関節の可動性と固定性に着目した理学療法プログラムの立案が重要であることは示唆された。