抄録
【はじめに】近年の高齢者人口の増加に伴い、低骨量となり特有の骨折群を表す脆弱性骨折という用語が定着しつつある。当院においても受傷患者は増加しており、整形外科入院患者に大腿骨近位部骨折がある一定の割合を占め、治療に難渋する機会が多くなっている。当院は地方都市で周囲に農村部が広がる約30万人の医療圏の中核病院である。その条件のなか大腿骨近位部骨折について調査したところ若干の知見を得たので報告する。
【対象・方法】対象は、平成18年4月~平成19年11月までの間に当院整形外科で大腿骨近位部骨折と診断され、理学療法を施行した男性14名、女性66名、計80名、平均年齢79.2歳、骨折部位は頚部内側40件、外側40件、手術形式は人工骨頭置換術18件、ハンソンピン固定術15件、γネイル35件、CCS5件、CHS1件、保存療法6件である。調査方法は理学療法(以下PT)開始時に性別、年齢、受傷場所、時間、受傷機転を問診等で情報収集し、Barthel Index(以下BI)とPT終了後の転帰を記録した。
【結果】1、受傷機転:受傷年齢は55歳~97歳で70歳代から受傷人数の増加傾向が認められ、80歳代が最も多く80歳代前半にピークがあった。受傷場所は自宅内45件、敷地内14件、敷地外18件であった。自宅内では廊下が8件と最も多く、次いでトイレや玄関であった。敷地外では自転車乗車中や押されての転倒受傷、敷地内では庭や車庫の段差で躓いての受傷であった。受傷時間は昼間(7~18時)44件、夜間(19~6時)27件であった。自宅内の夜間22件中12件がトイレ動作に関連してのものだった。2、転帰:PT終了時の転帰を便宜上、自宅退院(以下自宅)、回復期病院転院(以下回復期)、介護施設入所(以下介護)に分類して検討した。自宅47件、回復期24件、介護6件、入院中PT中止の3件であった。入院期間については自宅42.4日、回復期41.3日、介護32.7日であった。3、BIの観点から:PT開始時のBIの平均は60歳代52.1点、70歳代42.9点、80歳代28.3点、90歳代18.1点と年齢が上がるに従い得点が低くなった。終了時は同様に81.4点、84.5点、63.1点、42.5点と開始時と同様に低下した。転帰別での終了時BIは、自宅82.1点、回復期55.0点、介護48.9点であった。
【考察】今回の調査結果は、日本整形外科医会の全国調査とほぼ同等の結果が得られた。また、自宅内夜間でのトイレ動作に関連し受傷するものが、改めて多いことが確認できた。転帰において自宅と回復期では訓練期間は同等であったが、回復期転院する場合PT終了時BIが低く、施設入所の場合入院後訓練期間が短いという傾向が判明した。今後は予後や転帰に関与するものを検討する必要があると考えられ、継続して調査を行う予定である。