理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 962
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骨・関節系理学療法
慢性期頚髄損傷患者に対する体重免荷式歩行器での歩行訓練効果
嶽本 伸敏紺野 あすか江口 俊浅野 信一
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抄録

【はじめに】
近年,体重免荷式(Body Weight Support:以下,BWS )歩行支援装置を利用したトレーニングが,日本でも多くの施設で実施されるようになり,脊髄損傷や脳血管疾患をはじめ,様々な疾患に対する効果が報告されている.
しかし,現段階ではBWS装置を用いたトレッドミル上での歩行訓練が一般的であり,歩行器と一体化した機器を使用したケースは少ない.今回,BWS機能付き歩行器を使用し,歩行能力改善の得られた頚髄損傷患者を担当する機会を得たため,経過,考察を交え報告する.
【症例紹介】
65歳男性.2005年3月に階段より転落し,頚髄不全損傷(C5,6,7)を受傷.発症から1年半あまり他院にてリハビリテーション(以下,リハ)継続後,当院へ転院となった.全身的な過緊張及び四肢・体幹の表在,深部感覚重度鈍麻が認められ,ADLの制限も著明であった.1回60分,週5回程度の頻度にてリハを実施し,ピックアップウォーカーでの歩行が最長50m程度可能となっていたが,それ以上の改善はなかなか得られない状態が続いていた.歩行能力向上を阻害する因子としては障害部位以下の運動麻痺,表在・深部感覚重度鈍麻・脱失,歩行器使用時の上肢過活動から全身的な筋緊張亢進への波及(姿勢コントロール不良),正常歩行パターンの経験不足,転倒などへの恐怖心などがあげられた.
【治療経過】
2007年7月よりBWS歩行器(歩行器式フローラ;株式会社ファテック製)での歩行訓練をリハプログラムに組み込み実施.初めは5kg程度の免荷にて実施し,可及的に免荷量を減らすとともに歩行距離の拡大を目指した.最終的には,免荷なしの状態で150m以上の連続歩行が可能となった.
【結果】
4週間の実施後,10m歩行(ピックアップウォーカー)にて25秒以上の時間短縮、最大歩行距離拡大(最大86m),歩幅の増大などの歩行能力向上が認められた.また、ADLにおいてもトランスファーやトイレ動作時の介助量軽減などの効果が認められた.
【考察】
歩行能力改善が得られた要因としては(1)正常歩行パターン(交互ステップ)の学習(CPG賦活),(2)体重免荷による身体的負荷量軽減と安心感が増大することで,全身的な過活動の減少が得やすい状態となり,効率的な歩行訓練が可能であったこと,(3)一回の治療で長距離の歩行が可能であったこと,(4)歩行時に景色の変化(流れ)があり,外部からの刺激入力が多くなることから,ボディイメージの構築,運動学習に良い効果があったこと(環境適応・順応効果),(5)歩行の満足感が得られ,モチベーション向上につながったことなどが考えられる.
【今後の課題】
BWS歩行器の有用性が示唆される結果となったが,BWS歩行器を用いたトレーニングに関してはまだ症例数が少なく,今後多数の症例(疾患)に対しての効果検証を行っていきたい.

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© 2008 日本理学療法士協会
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