理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 972
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骨・関節系理学療法
距骨下関節回内外の切り替わりの境界について
遺体解剖による検証
壇 順司高濱 照国中 優治
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抄録

【はじめに】足底が床面に接地した足関節の背屈動作では,下腿を内外側方向へ傾斜することができる.これは一方向にしか可動できない距腿関節だけでは困難であるが,距骨下関節(以下,ST)の回内外が連動することで可能にしている.踵骨に対する下腿(距骨を含む)の動きは,下腿を前内側に傾斜した場合STは回内(下腿は内旋内転)し,前外側に傾斜した場合STは回外(下腿は外旋外転)する.しかしST回内外の切り替わりの境界について不明であるため,水平面上での下腿の傾斜方向の違いとSTの回内外の関係について遺体を用いて検証したので報告する.
【対象】熊本大学医学部形態構築学分野の遺体で右8肢を用い,関節包と靱帯のみの下腿標本を作製した.
【方法】脛骨前縁と中足骨が一致するように,下腿を第1~第5中足骨まで順に最大背屈位になるまで傾斜させた.水平面において底背屈中間位と各傾斜方向での脛骨下関節面前縁と前額面とのなす角を測定し,背屈に伴う下腿の回旋角を調べた.さらに矢状面外側方より踵骨溝外側および踵骨後距骨関節面と距骨外側突起の位置関係について観察した.
【結果】中間位は9.6±2.05°であり,各中足骨への下腿の傾斜では,第1中足骨は0°,第2中足骨は12.5±1.8°,第3中足骨は19±4.24°,第4中足骨は28.4±3.39°,第5中足骨は35±4.04°であった.多重比較検定(scheff`s F test)の結果,中間位と第2中足骨間では有意差は認められなかったが,それ以外はすべて有意差が認められた(P<0.01).矢状面外側方からの観察では,第1中足骨方向では,踵骨溝外側に距骨外側突起がはまり込んでいた.第2~5中足骨方向では距骨外側突起は踵骨後距骨関節面を後上方に移動した.第2から5中足骨方向になるに連れてその移動の距離は長くなった.
【考察】距腿関節は,一方向しか動かないので前額面上での下腿の内外側への傾斜は,STで行われ足関節は2重関節で動く機構を呈している.STには踵骨と距骨を強力に連結する骨間距踵靱帯があり,踵骨中距骨関節面と後距骨関節面の間で関節のほぼ中央付近にあることから,この靱帯は動きの支点となることが推察できる.また後距骨関節面は約40°前方傾斜しているため,水平面での回旋,前額面での内外転の動きを誘導すると考えられる.よってSTより上方の質量が,第1中足骨方向では支点より内側に移動するため後距骨関節面が内旋内転を誘導し,第3~5中足骨方向では支点より外側に移動するため後距骨関節面が外旋外転を誘導したと推察できる.第2中足骨方向では下腿の運動方向と支点の位置がほぼ一致したため,回旋しなかったと考えられる.すなわち,下腿の傾斜が第1中足骨方向ではST回内(下腿内旋内転)し,第3~5中足骨方向ではST回外(下腿外旋外転)して,第2中足骨方向が回内外(内外旋)の切り替わりの境界となることが示唆された.

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© 2008 日本理学療法士協会
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