抄録
【目的】腰椎椎間板ヘルニアの手術療法は、一般的に成績・経過とも良好とされている。しかし、手術症例の一部の患者において下肢痛や腰痛が残存する場合がある。腰部疾患の理学療法において、腰椎の生理的前弯の獲得が大切と考えており、今回、X-P側面像の評価から術後の経過を検討した。
【対象】ヘルニア手術症例16例(平均年齢41.5±9.9歳、男性9例、女性7例)。椎間高位はL4/5間7例、L5/S1間8例、L3/4とL5/S1間1例であった。
【方法】手術症例16例を経過良好群13例(A群)、経過不良群3例(B群)の2群に分けた。経過不良群の内訳は、再手術1例、再発ヘルニア1例、術後SLR-Tの改善がみられなかった1例とした。2群間における手術前X-P側面像から腰椎部脊柱管前後径(以下、前後径)、腰椎前弯角(以下、LLA)、腰仙角(以下、LSA)を計測した。またX-Pの経過が追えた3例(B群、再手術後1例を含む)においては術後約半年後のLLA、LSAを計測した。
【結果】前後径平均値は、L4高位でA群20.5±2.1mm、B群20.7±3.7mm、L5高位でA群21.2±2.0mm、B群21.3±3.3mmであった。今回の16例には12mm以下の発育性狭窄はみられなかった。LLA平均値は、A群18.2±7.5°、B群17.0±8.6°であった。LSA平均値は、A群29.8±8.5°、B群32.0±5.9°であり、前後径、LLA、LSAとも両群間における明らかな差は認められなかった。経過の追えた3例の術前LLA平均値20.0°、LSA平均値33.3°、調和度(LLA/LSA)0.59であり、術後LLA平均値25.0°、LSA平均値37.3°、調和度0.68であった。3例ともLLA、LSA、調和度とも改善がみられていた。
【考察】今回の結果から、術前のLLA、LSA、前後径から、術後の経過の予測が困難であることを示した。
A郡、B郡ともLLAが40歳代平均値(27.5°)よりも低いにもかかわらず、LSAは40歳代平均値(30.8°)と明らかな差がないことがわかった。経過が追えた3例に関しては、LLA、LSA、調和度も改善が認められ、術後に生理的前弯が改善されていることを示している。このことは、ヘルニアによる疼痛回避姿勢が、術後に改善されたものと思われる。
今回の結果から、ヘルニア術後に症状の改善が認められた症例に対し、生理的前弯の獲得の為の運動療法を施行する意義があると考える。