理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1452
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骨・関節系理学療法
関節可動域運動による関節拘縮の発生予防効果(第2報)
ラット関節拘縮モデルを用いた実験的検討
龍田 尚美中嶋 正明秋山 純一野中 紘士川上 照彦
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抄録

【目的】
我々は,第42回日本理学療法学術大会において,一般に関節可動域を維持するために必要とされる「1日に1度,1度に5回の関節可動域運動(以下,関節運動)を週に5日行う」という関節運動負荷条件による関節拘縮の発生予防効果をラット実験的関節拘縮モデルを用いて検証した。今回は,前回の条件に関節運動を週に1日,3日行う条件を加え,週あたりの実施頻度の違いによる関節拘縮の予防効果を関節可動域変化及び組織学的変化から更に詳細な検討を行った。

【方法】
実験には12週齢のWistar系雄性ラット30匹を使用した。ラットは無作為に対照群(無処置群),持続関節固定群(関節運動なし群),週1日関節運動群,週3日関節運動群,週5日関節運動群の5群に分け,各群6匹とした。対照群以外のラット左膝は,キルシュナー鋼線による創外固定で5週間の関節固定を行った。右膝は無処置とした。関節運動負荷は関節固定後1週間より開始され,関節運動負荷日に固定を解除して全可動域にわたる膝関節の往復運動を5回行った。関節可動域の測定は,持続関節固定群が関節固定前と関節固定後5週間,関節運動群は関節固定前,関節固定後1週間,3週間及び5週間に実施した。関節固定後5週間,すべてのラット左膝関節を採取した。常法により組織ブロックを作成し,膝関節矢状面で厚さ6μmの組織切片を作成しH・E染色を行った。

【結果】
関節固定処置前に対する関節固定処置後5週間の関節可動域は,持続関節固定群が約17%,週1日関節運動群が約20%,週3日関節運動群が約27%,週5日関節運動群が約40%とそれぞれ減少した。週あたりの関節運動実施頻度が多いほど関節可動域は維持されていた。組織所見では,持続関節固定群,1日関節運動群の関節腔内に多量の結合組織の増殖と癒着が確認された。癒着部における細胞増殖は持続関節固定群により多い傾向があった。3日関節運動群,5日関節運動群では関節腔に顕著な結合組織の増殖は見られなかったが,関節面に一部,結合組織の増殖像が確認された。

【考察】
今回の結果より,関節運動が関節構成体の恒常性維持に重要な役割を持ち,その効果は実施頻度に依存する事が示された。関節の不動状態は筋や関節構成体の変性,癒着を引き起こす。その原因には,関節運動の減少及び消失による血液や組織液の循環代謝障害,機械的刺激の減少などがある。今回,関節運動の実施頻度が多いほど関節可動域制限が抑制されたことから,関節運動が細胞の分化や成長因子,サイトカインなどの発現を誘導するための重要な働きを持ち,また,その発現バランスを保つには,ある一定以上の関節運動刺激量が必要である可能性が示された。

【まとめ】
関節運動実施頻度の違いによる関節拘縮予防効果を検討した。関節固定期間中に行った関節運動実施頻度に比例して,関節拘縮の進行が関節可動域評価及び組織所見の両方において抑制されることが明らかとなった。

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© 2008 日本理学療法士協会
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