理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 372
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内部障害系理学療法
術前血清クレアチニン値が冠動脈バイパス術後症例の離床に与える影響
西村 真人大久保 裕介西田 由紀松尾 善美山本 健史古田 宏東上 震一関井 浩義頓田 央乃田 浩光東 修平平松 範彦桑原 晶子前 宏樹下村 裕
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抄録
【はじめに】これまで我々は、冠動脈バイパス術(以下CABG)後の離床について年齢や術前左室駆出率、術式などが影響するか検討を行ってきた。今回我々は、術前血清クレアチニン値(以下Cr値)がCABG後症例の離床に与える影響について検討した。
【方法】対象は、当院心臓血管外科で2003年1月1日から2006年12月31日に待期的CABGを施行された術前に歩行を妨げるような著しい運動障害のない症例496名。方法は、術前Cr値が、1.2mg/dl未満をA群(393名)、1.2mg/dl以上2.0mg/dl未満をB群(60名)、2.0mg/dl以上で維持血液透析を受けてない症例をC群(11名)、維持血液透析症例をD群(32名)の4群に分類した。これらの症例の年齢、性別、術前左室駆出率・NYHA分類・呼吸機能、手術・麻酔・挿管の各時間、術後歩行開始・病棟内歩行獲得までの期間を調査し4群間で検討し、歩行を遅延させた理由も調査した。術後の離床は、術後第1病日から歩行を開始し、第4病日に病棟内歩行(200m)を獲得する当院のFast Track Protocolを用いた。統計学的処理は、SPSSを用いANOVA、Kruskal-Wallis検定、多重比較、χ2検定を用い危険率5%未満を有意とした。
【結果】年齢(A群66.4歳vs.B群70.3歳、B群70.3歳vs.D群63.7歳,p<0.05)、歩行開始(A群1.6日・B群1.5日vs.C群3.0日、A群1.6日・B群1.5日vs.D群2.6日,p<0.001)、病棟内歩行獲得(A群3.8日vs.C群5.6日,p<0.05)などに有意差を認めた。歩行開始遅延症例はA群160名、B群19名、C群11名、D群30名で、主な理由はA群:大腿動脈ラインなどの未抜去もしくは抜去後圧迫(以下、重要ライン関連)56名、疼痛29名など、B群:重要ライン関連10名、疼痛2名など、C群:重要ライン関連5名、腎不全・心不全2名など。D群:PT時間と透析時間との重複17名、重要ライン関連9名など。病棟内歩行獲得を遅延した症例はA群68名、B群12名、C群:5名、D群:15名で、主な理由はA群:頻脈(af)12名、術後低心機能9名など。B群:頻脈4名、術後低心機能1名など。C群:心不全徴候2名、腎不全・心不全2名など。D群:透析後疲労6名、PT時間と透析時間との重複5名などであった。
【考察】本研究では、術前Cr値が2.0mg/dl以上は術後の離床に影響することが示唆された。腎機能障害は、CABG後に悪影響を及ぼす独立因子として知られおり、Vasillisらは、緊急症例や弁手術などを含んだ報告で術前高Cr値がFast Track Protocolの進行を阻害する因子であると報告している。我々の研究においても同様の結果が得られた。しかし、D群については、歩行開始が遅れるものの病棟内歩行獲得には有意差がなかった。これは、C群とは異なり歩行を遅らせる主な理由がシステム的要因であり、透析を行うことにより水分出納バランスを早期に是正して心不全を防ぐことができたものと思われる。
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© 2008 日本理学療法士協会
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