理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 379
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内部障害系理学療法
無気肺を呈したSMA(1型)の女児に対する呼吸理学療法の経験
島 栄恵神田 満岡本 昭義港 敏則
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抄録

【はじめに】脊髄性筋萎縮症(以下SMA)の1型では、生後6か月までに発症し近位筋優位の全身筋力・筋緊張の低下を示し、生後2歳頃から人工呼吸管理が必要になる。また、慢性の肺胞低換気、嚥下機能の低下による誤嚥、気道分泌物の増加・貯留、さらに排痰困難により呼吸器感染症に罹患しやすくなり、呼吸理学療法をはじめとした総合的な関わりが重要となる。本症例においても、長期気管切開下人工呼吸管理の影響で喀痰閉塞による無気肺状態に至った。内視鏡下の喀痰を行うも胸部単純X線、左肺野へのair entryの改善がみられず、呼吸理学療法を実施した結果、良好な経過が得られたので報告する。
【症例】14歳女児。8ヶ月時、SMAの診断を受ける。2歳8ヶ月時気管切開を受け、3歳時より在宅人工呼吸療法を開始。理解面は良好。現在、養護学校に通学中。2007.4.17の評価では、四肢残存筋力は、右肘・手指3‐レベル、左手指2+レベル。四肢関節拘縮著明。右凸の側弯(Cobb角85度)。嚥下面は刻み食にてむせなく可能。呼吸機能面は、呼吸器A/CMVモード、経皮的動脈血酸素飽和度(%SpO2)95%、呼吸数(RR)20回/分、脈拍(HR)100回/分。自発呼吸微弱。胸郭可動性は右側の動きが主であった。聴診では、左肺は全体にair entry弱く特に後・外側肺底区に目立ち、前上葉区に副雑音を聴取した。右肺は全体に副雑音が聴取され、特に肺尖区・前上葉区・後肺底区に強く聴かれた。胸部単純X線所見では、肺全体に陰影がみられ特に左側に強くみられた。
【治療】呼吸理学療法としては、胸郭関節へのモビライゼーション、肋間筋へのストレッチ、体位ドレナージにバッグ加圧(アンビューバッグ)とスクイージングを併用した。体位ドレナージでは完全側臥位・前方45度側臥位・背臥位を組み合わせ、1つの体位で10分程度実施した。
【結果】2007.4.17~2007.6.1までの間に計12回の呼吸理学療法を実施した。胸部単純X線所見の改善、聴診においては呼吸理学療法実施後は改善がみられても、特に左肺へのair entryは翌日には減弱した状態に戻っていたが、徐々に継続して聴取できるようになった。%SpO2、RR、HRには変化はみられなかった。
【考察】長期の人工呼吸管理下では、気管軟化による気道閉塞が引き起こされやすく、また、慢性の気管支炎による気道分泌物の貯留がみられ排痰が重要となる。しかし、呼吸機能の低下により喀痰が十分に行えない。そこで、体位ドレナージによる重力の利用、バッグ加圧によるCritical opening pressureを超える圧を加え、スクイージングで呼気流速を高めることにより喀痰を促すことができる。本症例において胸部単純X線、聴診での改善が得られたことから、これらの併用は効果的であると考える。

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© 2008 日本理学療法士協会
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