抄録
【目的】当院では漏斗胸の外科的治療法としてNuss法を用いている。クリティカルパスに呼吸理学療法が組み込まれ術前から退院まで理学療法士が介入する。我々は、漏斗胸術前後での理学療法の役割と意義について調査・考察した。
【方法】当院の漏斗胸術前後の理学療法は、手術前日にインセンティブスパイロメトリーの使用法を統一した説明で指導し(小児は家族も)、術後は呼吸練習状況チェックと必要に応じ起居動作・退院前生活指導を行う。本研究の対象は、2004年11月1日から2007年10月31日までの3年間に、Nuss法施行目的で当院小児外科に入院した漏斗胸患者215名のうち、合併疾患・再手術がなく、後述する項目の評価・調査が全て行えた123名(男91名、女32名、年齢12.0±7.6歳)である。評価・調査内容は、入院期間と長期化の原因、術後無気肺の発生状況、術前と術後の呼吸様式、術前と退院前の胸郭拡張差(乳頭部・胸部陥没部・第10肋骨部・臍部)、術後呼吸練習状況と動作指導内容(理学療法記録から調査)である。
【結果】対象者123名の平均入院期間は13±4.3日で、入院期間が18日以上の長期例は8例で理由は疼痛、感染、肺炎、胸水貯留、気胸であり、無気肺による長期例はみられなかった。全例が術前は胸式、胸腹式呼吸で、41名が奇異呼吸を呈した。術後は全例が横隔膜呼吸へ変化した。術前後の胸郭拡張差(単位mm)は乳頭部44.9±16から3.7±4.6へ、胸部陥没部が45.0±15,6から4.0±4.8へ、第10肋骨部が35.0±19.0から26.1±13,6へ、臍部は0.4±15.6から29.5±11.7へと変化した。インセンティブスパイロメトリー指導は家族・対象者ともよく理解していたが術後疼痛のため年齢層の低い症例は呼吸練習実施困難であった。多く行われた術後指導は、疼痛の少ない起居動作方法や介助法指導(47例)、復学・復職を念頭に置いた生活リズム復調の推進や環境にあわせた生活指導(60例)であった。
【考察】Nuss法は、彎曲した形状のペクタスバーを側胸部から反対胸部まで挿入した後バーを回転させ、漏斗変形を矯正する方法である。術侵襲は少ないが矯正された組織の疼痛や炎症が問題となり硬膜外麻酔で疼痛管理しながら術後4〜5日から離床許可される。浅呼吸・臥床傾向による無気肺の予防が重要とされる。しかし術後は硬膜外麻酔の影響、疼痛と胸郭可動性変化により、効率の良い深吸気は困難である。疼痛を回避する起居動作方法を指導し離床の苦痛を軽減すること、生活リズムを復調させ復帰環境をふまえた指導で日中の活動を促すことが無気肺予防にも有効と考えられた。
【まとめ】Nuss法による漏斗胸手術前後の理学療法では、離床を中心とした広義の呼吸理学療法が有効と考えられ、起居動作方法の工夫、生活リズム復調などの理学療法学的視点が生かされる。