抄録
【はじめに】
デュシャンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)患者において、病態の進行に伴い呼吸不全となり人工呼吸器管理が余儀なくされる。リハビリテーションの中で、呼吸機能維持のため徒手的な呼吸理学療法を始め、機械・器具を用いた陽圧的換気療法が行われている。今回、アンビューバッグを用いた陽圧的換気療法が、呼吸機能維持に有効か検討したので、以下に報告する。
【対象】
気管切開がなく、24時間人工呼吸器管理には至らずに、日中は自発呼吸のみで車椅子等の座位で過ごしている、DMD患者10名(17~28歳)。アンビューバッグによる陽圧を加えるため、肺実質に器質的病変が無い事を確認した。
【方法】
アンビューバッグによる安静呼吸を2~3分間行い、呼吸筋をリラックスさせた後、努力性に吸気を促し、更にアンビューバックで陽圧を加えながら最大努力性吸気を3回連続して行った。その前後の肺活量(VC)と、痰の喀出に必要な咳の力の指標としてピークカフフロー(PCF)を測定し、これを週に1~2回、計3回実施しデータを基に治療効果を検討した。
【結果】
最大努力性吸気を行った前後のVCでは平均0.07±0.05Lの増加が見られた。PCFにおいても14.08±8.4L/minの増加が見られ、VCおよびPCFいずれも対応のあるt検定の結果、有意な差が認められた(P<0.01)。1症例に対し3回測定したが、1回目と3回目のデータを比較・検討した結果、有意な差は認められなかった。陽圧的換気療法の前と後の、VCとPCFの間にはそれぞれに有意な相関が認められた(前と後ともにr=0.69)。
【考察】
アンビューバッグによる陽圧換気療法の前後では、VCおよびPCFが増加し、即時的効果が得られた。しかし、初回と3回行った後の結果に優位な差が見られなかった事より、VCおよびPCFの増大が目的というよりも、現状機能の維持という方が妥当であると考えられる。DMD患者においては、呼吸筋の筋力低下や胸郭の変形などによる拘束性要素が顕著となるが、肺実質には問題がない事が多いので機械的に肺胞を膨らませ、肺のコンプライアンスを維持し、併せて徒手的に胸郭の可動性を改善させることにより呼吸機能を維持していく事が必要である。またDMD患者の呼吸筋活動は易疲労性であるため、呼吸機能測定の際には数回反復して行うよりも、少ない回数で確実に測定しなければ正確なデータが得られないため、注意が必要である。