抄録
【目的】従来、当センターの理学療法士(PT)が介入する開心術後心臓リハビリテーション(心リハ)は、術後集中治療室(ICU)から一般病棟へ転棟した時点より開始となっていた。しかし2006年11月より術後翌日ICUからPTが介入することとなった。ICUでの心リハは当センター独自の離床基準に従って実施し、一般病棟転棟後は従来と概ね同様の心リハを展開している。今回単独的に施行した冠動脈バイパス術後症例において、PTの介入時期の違いが歩行能力にどのような影響を及ぼすか検討した。
【対象および方法】術前ADLに問題がなく待機、単独的に施行した冠動脈バイパス術後症例において、2005年11月~翌年9月に手術を施行した群を病棟群、2006年11月~翌年9月に手術を施行した群をICU群とした。なお透析患者、術後運動機能障害を有する者は除外した。各群において年齢、性別、身長、BMI、術前左室駆出率、術前呼吸機能、手術様式、グラフト本数、手術時間、手術日からPT介入による心リハ開始日、転棟日、50、100、200、300、400、500m までの到達期間、歩行耐久性、心リハ実施期間、回数を検討した。統計学的処理はχ二乗検定、対応のないt検定を行い、有意水準を危険率5%とした。
【結果】病棟/ICU群54/40例。年齢66.5±9.6/67.2±9.7歳。男性44/32例、女性10/8例。身長161.0±7.1/162.5±8.7cm。BMI23.7±2.6/23.7±3.5Kg/m2。術前左室駆出率56.0±10.9/53.7±12.2%。術前呼吸機能%VC103.4±16.5/132.9±17.1、FEV1.0%77.8±7.8/77.8±9.9。手術様式CABG35/30例、OPCAB19/10例。グラフト本数3.8±0.9/3.8±0.9本。手術時間5.2±1.0/5.0±1.1時間でこれらに有意差はなく、手術日から心リハ開始日4.3±1.6/1.5±1.0日で有意差(p<0.01)を認めた。転棟日3.4±1.1/3.2±0.8日で有意差はなく、50m4.7±1.6/2.9±1.0日、100m6.5±2.9/4.9±1.6日でそれぞれ有意差(p<0.01)を認めた。200m7.9±3.1/6.4±1.9日で有意差(p<0.05)、300m9.9±3.8/7.4±1.7日で有意差(p<0.01)を認めた。400m11.0±3.9/10.0±3.2日、500m13.3±5.4/12.1±4.5日、歩行耐久性711.1±320.2/792.5±278.6m、心リハ実施期間11.9±5.1/13.7±4.4日、心リハ回数7.2±2.3/8.0±2.3回では各々有意差は認められなかった。
【考察】心リハの平均開始日が1.5日であり概ね順調にPTが介入できている。歩行能力では従来の病棟からの介入と比較するとICUからの介入の方が50~300mにおいて有意に到達期間が短縮しており良好な結果となっている。一般的に200m程度の連続歩行が可能であれば病棟生活において大きな問題も少ないことから、術後翌日の介入がより早期に術後ADL拡大へと貢献できているものと考えられる。