抄録
【はじめに】内科的治療に反応しない末期的重症心不全患者の治療として左室補助人工心臓(LVAS)が用いられる。LVAS装着患者は、装着後に重度心不全状態から脱却し循環動態が安定した後も、術前からの長期臥床による廃用のため日常生活動作の獲得・運動耐容能向上を目的にリハビリテーション(リハ)が必要となる。さらに、心移植件数の少ないわが国では、今後LVAS装着患者の増加が予想されることから、装着後のリハプログラムの標準化が必要となることが考えられる。そこで今回,LVAS患者に対するリハプログラムの検討を行うこととした。
【対象】2004年10月から2007年3月までに,埼玉医科大学病院にて東洋紡社製国循型LVASを装着した症例のうち,リハを行った29名(年齢34.6±15.6歳,男13名,女16名)とした。原疾患の内訳は,拡張型心筋症15名,劇症型心筋炎5名,虚血性心筋症6名,その他3名であった。
【方法】当院におけるリハプログラムに準じたリハ介入の経過について調査を行った。また,心肺運動負荷試験(CPX)を実施できた症例については, 1ヶ月ごとのCPX結果から,運動耐容能の推移について調査した。CPXには、自転車エルゴメータを用いて、安静3分間、ウォーミングアップ0W4分間の10W/minのランプ負荷を施行し、呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト医科学社製)にてBreath by Breathによる測定を行い、嫌気性代謝閾値(AT)、PeakVO2を測定した。
【結果】術後8.6±7.7日にベッド上にてリハを開始し,歩行練習は30.3±20.9日より開始した。その後500m連続歩行が可能となった症例は24名で,獲得までの日数は術後63.5±48.4日であった。CPXを2回以上実施した症例は20名で,そのうち14名で運動耐容能の改善がみられた。また,脳梗塞や脳出血等の脳血管障害(CVA)を呈しLVASリハプログラムを逸脱した症例は11例みられた。
【考察】LVAS装着後、急性期には姿勢変化により循環動態の変化をきたしやすいが、当院におけるリハプログラムでは各個人の循環応答に応じ安全にリハを進めることができた。さらに,術後循環動態が安定すれば積極的な運動耐容能の改善を図ることが可能で,良好な移植待機,自己心機能改善による離脱を行う症例も存在した。しかし、循環動態安定後も日常動作獲得が大幅に遅延する症例もあり,プログラム内容について検討を要すると考えられた。さらに,ポンプ内に血栓を生じることの多いLVAS構造上の問題から,CVAを呈する症例もみられ,その場合にはリハプログラムを随時変更し,個別プログラムを導入した。
【まとめ】LVAS装着患者のリハは,その特殊性から専門的な知識を要し,術後も移植・LVAS離脱に至るまで在院日数は長期にわたることが多く,その過程で柔軟な対応が求められた。そのため,理学療法士が早期から関わり,術後経過を把握しながら随時リハプログラムを検討していく必要性があると考えられた。