抄録
【目的】筆者らは国立大学法人附属病院に勤務する理学療法士を対象に、糖尿病教室の運動療法講座(以下、教室)に関するアンケート調査を実施したところ、保険請求上の問題、時間的制約等の理由で約半数の施設で教室自体実施されていないこと、実施されていてもアセスメントが不備である等の問題点が浮き彫りになった。現状でこれらを根本から改善することは不可能であることから、教室ではより質の高い内容を参加者に提供することが先決であることが示唆された。そこで、今回は教室において最も有効である先行刺激が何であるかを把握する目的でアンケート調査を実施した。
【対象と方法】対象は2005年2月から2007年10月に当院で実施された教室に参加した糖尿病患者252名(全例2型)で、性別は男性160名、女性92名であった。平均年齢は59.4±14.0歳(13~88歳)、罹病期間は平均8.5±9.7年(10日~46年)であった。アンケートは講義終了後に実施した。アンケートの内容は講義後の感想、講義内容である8項目について運動療法に対するモチベーションの向上度を◎:大変やる気になった要因、○:少しやる気になった要因、△:どちらともいえない、×:やる気になった要因ではない、の4段階から選択してもらった。統計学的手法は、講義後の感想と性別、年齢、罹病期間の関係等についてカイ二乗検定を用い解析した。
【結果】講義後の感想では、運動療法を大変やる気になった158名、少しやる気になった89名、どちらともいえない2名、やる気になれない3名であった。この結果と性別、年齢、罹病期間との関係について分析した結果、いずれの項目においても関連性はみられなかったが(p<0.05)、罹病期間との関連において1ヶ月未満及び1年未満の群と10年以上経過した群で運動療法に対する前向きな意見が少ない傾向にあった。講義内容において大変やる気になった要因と回答した項目を挙げると、血糖値低下につながること139名、食事療法と並行して行うと効果的であること110名、インスリンの節約につながること97名、基礎代謝の向上につながること78名、ライフスタイルに応じて行うこと73名、実際の運動を体験して68名、動脈硬化の予防・改善につながること66名、ダイエットに効果があること63名の順であった(複数回答可)。
【考察】講義後の感想の結果から、糖尿病診断後1年未満の患者の多くは悲嘆期あるいは前熟考期のステージにあり、否認及び逃避により問題の認識が不十分であることが考えられた。モチベーションの向上要因の結果から、運動療法がインスリンの感受性改善につながること、食事療法単独では不十分であること等が理解されたものであると考えた。以上の結果を踏まえ、講義が患者にとってより有益なものとなるよう再考することが必要であると考える。